イタリアのサッカーはなぜ凋落したのか

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

セリエAで2連覇を達成したユベントス(photo by Getty Images)セリエAで2連覇を達成したユベントス(photo by Getty Images)【サイモン・クーパーのフットボール・オンライン】イタリアの落日(1)

 ユベントスの会長アンドレア・アニエリは、オフィスの棚にある写真を指さす。映っているのは半ズボンをはいた男の子。茶色い髪をして、どこか田舎のグラウンドでユベントスの試合を見ている。男の子は幼いころのアニエリ。ベンチで隣に座っているのは、彼の亡き父で50年前にユベントスを経営していたウンベルトだ。

 アンドレア・アニエリは37歳。トリノの中心部にあるクラブハウスの驚くほど質素なオフィスで仕事をしている。2010年に会長に就任した彼の下で、ユベントスはイタリア・フットボールのトップという定位置に返り咲いた。しかしユベントスは、本当にめざす位置にはまだ至っていない。ヨーロッパのトップである。この目標が達成できない理由のひとつは、ユベントスがイタリアの抱える問題の犠牲になっていることだ。

「今のイタリアのフットボールは、見ていて面白いだろうか?」と、アニエリは言う。「スタジアムは半分しか埋まっていないし、暴力沙汰も起こる。決して最高の『商品』とはいえない」

 腐敗と暴力がはびこり、経済は下り坂、地域間対立に悩まされ、物事を前に進める力はないに等しい──そんなイタリア・フットボールの現状は、イタリアという国の完璧すぎる縮図ともいえる。ユベントスがめざすものは、実にむずかしい。それはフェラーリ(こちらもアニエリ家の傘下にある)やグッチ、あるいは街角のすばらしいカフェのように、凋落の続くこの国でキラリと輝く存在になることだ。

 アニエリ家は「イタリアのロイヤルファミリー」と呼ばれることがある。自動車に未来を見いだしていたアンドレアの曾祖父ジョバンニ・アニエリは1899年、「ファブリカ・イタリアーナ・アウトモビリ・トリノ(トリノ・イタリア自動車製造会社、頭文字をとってFIAT)」という会社を立ち上げたひとりだった。

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