なぜこれほど多くのサッカー本が出版されるようになったのか

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

【サイモン・クーパーのフットボール・オンライン】歴代スポーツ本ベスト10(3)

10月に発売されたアレックス・ファーガソン前マンチェスター・ユナイテッド監督の自伝もベストセラーになった(photo by GettyImages)10月に発売されたアレックス・ファーガソン前マンチェスター・ユナイテッド監督の自伝もベストセラーになった(photo by GettyImages) 深い部分を描くスポーツ・ライティングがより必要になった理由のひとつに、日々のスポーツを伝えるジャーナリズムがいっそうあわただしくなったことがあげられる。90年代初めに衛星テレビがスポーツを休みなく流すようになってから、新聞やウェブサイトもスポーツニュースを増やしてきた。

 男たちはスポーツニュースに群がった。アメリカ大統領だったジョージ・W・ブッシュの首席補佐官を務めたアンドルー・カードによれば、「大統領はあまり新聞を読まないが、スポーツのページだけは毎日読む」。アメリカの著名な政治思想家であるノーム・チョムスキーは、「まともなメディア批評家」はスポーツとソープオペラに目を向けるべきだと主張する。「この手のものがメディアの大半を占拠している。ほとんどのメディアは政治に敏感な人々向けに、エルサルバドルに関するニュースを掘り下げたりしない。人々の関心を本当に重要なことからそらしている」

 しかしテレビ業界から今までにはなかった金が入るようになると、スポーツチームはいっそう抜け目なくメディアに対応するようになった。スポーツチームは今、スポーツジャーナリズムをコントロールし、制限まで加えている。選手たちは「メディア対応トレーニング」を受け、広報担当者がインタビューをチェックする。スポーツ記者は、記者会見という「加工された現実」に閉じ込められる。

 スポーツをテーマにした最近のアメリカの小説のなかでは大傑作というべきベン・ファウンテインの『ビリー・リンのロング・ハーフタイム・ウォーク』では、アメリカンフットボールのダラス・カウボーイズの架空のオーナー、ノーム・オグレズビーが進めるスタジアム移転計画に、記者たちがかみつく。

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