渡邊雄太、自ら「崖っぷち」を宣言。「ボロ負けしても楽しそう」だったのはなぜか

  • 宮地陽子●取材・文 text by Miyaji Yoko
  • photo by AFLO

「崖っぷち」の言葉とともに、10月17日、渡邊雄太はNBA選手としての5シーズン目を迎えた。キャンプ招待選手としてブルックリン・ネッツのトレーニングキャンプに参加し、開幕まで残れる保証がないなかで、ロスター枠を勝ち取ったのだ。

 その日、渡邊はSNSにこんな投稿をした。

『とりあえず開幕ロスターに残りました 本当の勝負はこれからなんでさらに気を引き締めて、引き続き崖っぷち精神で頑張ります!今シーズンブルックリンネッツの応援よろしくお願いします!!

#がけっぷち』

 プレシーズン試合での渡邊は、間違いなくロスターに残るに値するだけのプレーを見せていた。チームがそれを認めたからこそ、開幕ロスターに残ったのだ。

ブルックリン・ネッツのロスター枠を勝ち取った渡邊雄太ブルックリン・ネッツのロスター枠を勝ち取った渡邊雄太この記事に関連する写真を見る それでもちょっと油断すると、いつチームからカットされるかわからない世界であり、そういう立場だ。「油断するな」と自ら気を引き締めるかのような「崖っぷち」という言葉だった。

 これまで4年間も、同じことの繰り返しだった。ルーキーの時のメンフィス・グリズリーズとのツーウェイ契約から始まり、2年前にはトロント・ラプターズでキャンプ招待からツーウェイ契約、そして本契約。決して安定した立場ではなく、崖っぷちを進みながら、そのたびに自分の力で居場所を勝ち取ってきた。

 その繰り返しをして迎えた、5年目のシーズン。日本人選手として最長なのはもちろん、4年半と言われるNBAの平均キャリア年数も、いつの間にか上回っていた。

 NBA選手のなかには、貧しい環境で育ち、自分の力で貧困を抜け出そうという気持ちをモチベーションにしてきた選手が多い。恵まれない環境を変えようとする強い思い、ハングリー精神が、彼らの成長を後押ししてきたのだ。

 渡邊の場合は、子ども時代にそこから抜け出さなくてはいけないと思うような環境で育ったわけではない。日常生活でも食べるものに困ったこともない。両親とも元バスケットボール選手で、自分が夢を追いかけることを全面的にサポートしてくれた。

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