小橋建太、笑顔の引退。「プロレスは自分の青春でした」 (2ページ目)

  • 長谷川博一●取材・文 text by Hasegawa Hirokazu
  • 平工幸雄●写真 photo by Hiraku Yukio

 真面目、さわやか、好青年。ついそうした正統派の印象を持たれてしまう人だが「さわやかでも何でもない。俺はこうして生きて行きたいというだけであって、人にどう思われたいものじゃない。どちらかというとけったいな人間だと思いますよ」と笑っていた。

 当時の三沢光晴とのシングル戦は行なう度に名勝負となったが、ある試合前の特訓で道場の風呂場にダンベルを持ち込み高温の場所で筋肉運動をしていたことがある。「心臓に悪いし、ただの無茶でしょう」と茶々を入れると「そういうことじゃない。要するに精神力の問題なんだ」と言い返す。そうした部分は少し過剰で、なるほどけったいでもあった。

 ある日、食事の席に誘い、鮨屋とその後居酒屋に行った。酒をほとんど飲まない小橋は、2軒目で炒(い)った銀杏を何度もおかわりしていた。ここでもナチュラルなスタミナを求めるのか、と微笑ましく思った。途中から先輩格の三沢光晴を誘うと「いいよ」の返事。気心の知れた仲とはいえその頃は対戦相手、くつろいでいた小橋を少し恐縮させてしまった。

 でも駐車場へ急ぐ帰り道、確か冬の明け方だったか、2人が並んで歩いている。我が心の黄金のタッグチームがボソボソと何か話をしている。後ろからその姿を追いつつ、まるで映画のようだと思った。

 引退試合を終え、リング上で小橋は「プロレスは自分の青春。一つの青春は終わり、また次から来る青春を頑張ります」と語っていた。そうだ、プロレスとは永遠の青春なのだ。多くのプロレスファンの心にも、胸が切なくなるプロレスの青春があるだろう。しかし青春は一種類ではない。そこにもまた生きる妙味がある。

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