現役引退の藤本主税。最終戦を前に起こした『事件』
12月特集 アスリート、現役続行と引退の波間 (9)
Sportivaで5年半続いたノンフィクション連載『アンチ・ドロップアウト』において、筆者はひたむきにプレイする男たちの肖像を描いている。彼らの生き様には信念や執着があったのだが、それ以上に「サッカーが好きでもっとうまくなりたい!」という純粋な思いが脈打っていた。凛(りん)とした姿は眩しいほどで、その断片を切り取ることにより多くの読者の共感を得られたのだと思っている。
もっとも、サッカー選手は一生続けられるものではない。
<スパイクを脱ぐ>
その決断を下すときがいつか来るものだ。
あの男たちはそのとき、いかにして自分と向き合ったのか。それを知りたくて彼を訪ねることにした。
今季をもって現役を引退した藤本主税 藤本主税(ちから・37)は96年に徳島市立高校からアビスパ福岡と契約。その後、サンフレッチェ広島、名古屋グランパス、ヴィッセル神戸、大宮アルディージャ、そしてロアッソ熊本に在籍し、19シーズンの現役生活を過ごしている。カップ戦を含めると525試合出場64得点。磨き上げたスキルと度胸満点の仕掛け、とりわけ二列目からゴール前に飛び出す能力はJリーグ屈指だった。2001年にはフィリップ・トルシエ監督が率いる日本代表に選ばれ、2試合に出場している。
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