涌井秀章は新天地ロッテで再び輝きを取り戻せるか? (3ページ目)

  • 中島大輔●文 text by Nakajima Daisuke

 取材時には思わぬ本音をこぼす瞬間があり、ドキっとさせられることもあった。

 2010年8月、このシーズンに出場機会を増やしていた捕手の上本達之について、涌井に聞いたことがある。

「上本さんのいいところ? キャッチャー目線じゃないところ、ですかね」

 上本は守備に課題がある一方、打撃が特長の捕手だ。「キャッチャー目線じゃない」という発言は、うがった見方をすることもできる。思わず、真意を聞き返した。

「いい意味で、守りに入らないということですよ。上本さんは緩い球をたくさん使ってリードする。それも攻めの投球だと思います」

 2012年7月には、リリーフとして再起をかける涌井を久々に捕まえじっくり話を聞いた。

「クローザーになってプラスになった部分? まだ先発に戻っていないので、今のところはわかりません。野球をやっているからには先発としての気持ちは捨ててないけど、今は抑えることしか頭にないです」

 クローザーについての話を聞いているのに、先発としての気持ちがこぼれてくる。それこそ、涌井の本音だった。

「もともと先発しかできない人間と思っていました。僕自身は、先発をできなくなったら終わりと思って、プロに入ってきました」

 2013年4月4日、先発として542日ぶりの白星を手にし、ホッとした表情でそう話した。涌井にとって、自身の投手生命は先発として仕事を果たせるかにあると言っても過言ではない。今回、ロッテへの移籍を決めたのも先発として起用されることが大きな理由だった。

 そしてもうひとつが、伊東勤監督と大迫幸一フィジカルコーチの存在だ。伊東監督は2004年から4年間、西武の指揮を執っており、涌井が一人前の投手に成長していく過程を間近で見守ってきた。大迫コーチは2011年まで西武のトレーニングコーチを務めており、涌井が「大迫さんがいなかったら今の自分はない」と絶大な信頼を寄せる人物だ。涌井のいい時を知るふたりの良き理解者の存在は、復活を期す涌井にとって追い風になるのは間違いない。再び先発として輝き、スーパースターたる二面性を存分に見せてくれることを願っている。

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