センバツ2試合で25奪三振 阿南光・吉岡暖の最大の武器は「世界の盗塁王」も絶賛したフィールディングだ (2ページ目)

  • 元永知宏●文 text by Motonaga Tomohiro

【フィールドディングは武器】

 この試合後、筆者は甲子園球場の外で福本豊さんと偶然会ったのだが、名球会メンバーでもある名解説者は笑みを浮かべてこう言った。

「あのピッチャー(吉岡)、ええボールを放る。ストレートも伸びるし、変化球もいい。これからが楽しみなピッチャーやね。それに、守備もうまかった。ふたつ目のゲッツーはショートとの間に塁審がいたから難しいプレーやったけどね」

 注目度の高い甲子園大会では、ストレートの速さ、奪三振数などが大きく報道される。だが、ピッチャーにとって大事なのはそれだけではない。

 かつて横浜(神奈川)で黄金時代を築き、プロ野球にも数多くの好投手を送り出した名伯楽、小倉清一郎元部長の言葉を思い出す。

「この選手はプロに行けるなと思った段階で、フィールディングと牽制とクイックモーションは徹底的に練習させます。プロになったら、投球だけに専念できるようにしたかった。マウンドはグラウンドのど真ん中にあって、一番いい場所にある。土地で言えば、銀座の一等地。ピッチャーはそこを占領するんだから。守備に不安のない選手はプロで成功する確率が高い。その代表が松坂大輔(元西武など)であり、涌井秀章(現・中日)ですよ」

 その小倉に鍛え抜かれた松坂はこう語っている。

「プロ野球選手でもバント守備や牽制で苦労するピッチャーがいるのですが、まったく不安はありませんでした。むしろ、バントの場面では僕が攻めているような気になり、『バントしろ、バントしろ』と思ったものです。小倉さんに鍛えられて、フィールディングは僕の大きな武器になりました」

 日米通算170勝を挙げた松坂だが、その守備力がなければこれほどの勝利数を積み上げることはできなかったかもしれない。

 ストレートの最速は146キロ、2試合で25個の三振を奪った吉岡を支えるのもまた、柔らかなフィールドディングだ。

 ベスト8進出を決めた阿南光の次の相手は、秋の明治神宮大会を32年ぶりに制した星稜(石川)だ。今後の目標を問われて、吉岡は力強くこう言った。

「次の試合も無失点で終われるように、ピッチャーとしての役目を果たしたい。最終的には、全国制覇できたらいいなと思います」

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