「パリ五輪ではなく日本記録を狙いたい」「五輪はもう夢物語ではない」新谷仁美がコロナ禍の東京五輪で見つけたアスリートとして生きる道 (2ページ目)

  • 藤井みさ●取材・文 text by Fujii Misa
  • 柳岡創平●撮影 Yanaoka Sohei

●五輪は夢物語ではなくなった

 新谷は現時点では現役の日本女子ランナーとしてはマラソンで最も速いタイムを持っているが、今年9月のベルリンマラソンで日本記録を狙うことを表明している。

 それは同時に、10月のMGCに出場しない、すなわちパリ五輪を目指さないということでもある。この決断には2021年、コロナ禍で行なわれた東京五輪の10000mに出場したことが大きく影響している。

 開催時は新型コロナの感染拡大防止が叫ばれる真っ只中。そのなかで海外から選手を迎え入れて開催する大会には「今やるべきではない」という反対の声も多かった。

「私がこの競技を始めた時の五輪ほど、『皆さんが夢見ていた五輪』じゃなくなったんだなという現実を理解したという感じです。いつまでも夢物語ではないんだなと。

『今、何が必要なのか』『何が求められているのか』と皆さんが生きるうえでシビアに考えていたあの時は、五輪じゃなかったのかなって」

この記事に関連する写真を見る 参加している選手のなかには、「自分は競技をしているのであって、社会のこととは関係ない」と思っている選手も多く見受けられ、それにも違和感を覚えたと新谷は言う。

「やはり私たちアスリートは社会に支えてもらってこそ、自分の力を発揮する場所ができる、ということを理解しないといけないと思います」

 試合に臨むアスリートとして、社会の空気とアスリートとのギャップを大きく感じてしまったことも新谷にとっては辛い経験にもなってしまった。

「それが私の周りの人たち、どんな時でも私を応援してくれる人たちにも悪影響を及ぼしてしまいました。

 だから私は自分を守る意味でも、これからも社会に貢献していきたいという意味でも、『記録を狙う』というところに重きを置いていきたいとより考えるようになりました」

 率直な気持ちを口にする。

「すべての人がスポーツに興味があるわけではないので。好きだとか嫌いだとか、自分の価値観を押しつけるのではなく、相手の価値観も知ったうえで私たちは表現をしていかないといけないんだと思っています」

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