髙久龍が東京マラソンで「絶望」を感じるも、「競技人生の最後」と決めてパリ五輪を目指す理由 (3ページ目)

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • photo by 日刊現代/アフロ

2022年の東京マラソンで感じた「絶望」

「MGCの権利を獲れたので、次にちらついたのが世陸(世界陸上・2022年7月開催)のマラソン代表でした。僕は2時間5分50秒ぐらいで走らないと代表にはなれなかった。なんとかタイムを出したい気持ちはありましたが、20キロ地点で鈴木(健吾・富士通)選手の仕掛けにまったく反応できなくて、こんなに強いのか、まだこんなに差があるのかって絶望してしまいました。しかも5分台が狙えないとわかり、そこで気持ちが一気に萎えたというか、きれてしまいました。MGCを獲っているし、世陸に行けないならいいかって言い訳ばっかり考えてレースを途中で投げてしまったのです」

 レース後、髙久はせっかく長い時間をかけて調整してマラソンに出場しているのに、途中でレースを投げたことを猛省した。福岡国際のように、ある程度主導権を握っていると最後まで安定して走れるが、逆に気持ちが落ちてしまうと終わってしまうメンタルも課題として残った。

 ただ、東京マラソンでは世界のトップの走りを間近で見て、感じるものもあった。

「キプチョゲは、アップの時から落ち着きが全然違いました。ゆっくり動いているのですが、オーラが違う。マラソンとは俺だ、みたいな感じの人です。正直、まだ憧れの域にあって、一緒に走ってもスタートした瞬間から違うので、同じレースを走った気がしないのですが、やっぱり少しでも背中を追いかけたいですね」

 パリ五輪は、果たしてキプチョゲが出てくるかどうかわからないが、ケニア、エチオピアのアフリカ勢が中心になるのは間違いないだろう。その前に、MGCで勝たなければならない。

「まだ、1年あるのでMGCのレースプランは具体的に決めていないですけど、スピードよりもタフな選手が勝つでしょうね。前回のMGCで大迫(傑・ナイキ)さんや(服部)勇馬(トヨタ自動車)、中村(匠吾・富士通)らは距離走を始め、かなりタフな練習をしていると聞いていたので、僕も今回、スピードよりも強さを重視して取り組んでいきたい。前回、走りきれなかったので、今回は勝負したいと思います」

 前回のMGCでは設楽がいきなり飛び出して先行するレース展開になった。「設楽さんのようなレースは相当メンタルが強くないとできない」と髙久は語ったが、それでも自らが主導権を握るレース展開に持ち込めば勝機が見えてくるはずだ。

 髙久にとって、五輪とは、どういう舞台なのだろうか。

「五輪は、陸上競技を続けている以上、選手が目指す最高で最終の目標だと思います。僕にとってもそうで、前回、東京五輪で後輩の勇馬が走っているのを見て、悔しいと思う反面、五輪を身近に感じて自分の足で走りたいと思いました。それまで五輪は見るものだと思っていたけど、年々結果を出すことで目指せるところにきているのかなという実感はあります。僕のなかでは、競技人生は次のパリ五輪までと決めています。今まで自分の経験してきたものをすべてMGCにぶつけて、パリ五輪に出たいなと思っています」

 MGCは、髙久の競技人生ラストの走りになるのか。それともパリの凱旋門へと続くロードになるのか。失うものがない覚悟の走りは、劇的なドラマを生みそうだ。

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