女子4×100mリレーの未来は明るい。信岡沙希重コーチが語る強化と選手たちの意識の変化 (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by Naoki Nishimura/AFLO SPORT

 昨年の東京五輪では、日本記録に0秒05まで迫る歴代2位の43秒44を出したが、メンバー4人の100mのシーズンベスト平均は11秒60。だが今回の代表である君嶋愛梨沙(土木管理総合)と兒玉芽生(ミズノ)、御家瀬緑(住友電工)、青木益未(七十七銀行)、青山華依(甲南大)の5人の平均は11秒43と手応えはあった。そして7月10日南部記念の男女混合応援レースでは、バトンのミスがありながらも43秒67を出していた。

「南部で2本走って世界選手権が3本目という状況で、42秒9には届かなかったけど合格点だったと思います。正直、もう少しいきたかったという気持ちもありますが、今まではそれすらできなかったという意味では、ちゃんと力が出せるようになっているという前進も見えました。収穫と課題の両方がある結果でした」

 世界選手権のレースは、大会の公式記録のデータによると、1走の青木が11秒84の6位で走り、2走の君嶋は10秒31のラップタイム。3走兒玉が10秒44で走り、4位と5位の中国とカナダに0秒03差まで迫った。4走の御家瀬は10秒74かかり、ポーランドにかわされて7位に落ちた。

「東京五輪は8レーンだったので自分たちの力を出しきれましたが、今回は5レーンで、もまれるレースで難しいだろうなと思っていました。内側からこられると、自分が加速しているのに『いけていない』と感じてしまう。それもいい経験だと思いましたが、そのなかでも2走と3走はすごくよかった。

 4走の御家瀬選手も出だしはよかったものの、大きい大会の経験がなかったことやアンカー勝負で後半は少し硬くなってしまったんだと思います。42秒台となると1走の青木選手がもう少しいいタイムでいけていないと無理だったでしょうが、御家瀬選手が南部記念のような走りをしていれば、43秒1台は出たと思います」

 一方、収穫は大きかった。2走の君嶋は、内側のイギリスの9秒98の走りに圧倒されながらも自分の走りをした。また、兒玉も予選2組の3走で、3番目になるラップタイムを出した。信岡コーチは「兒玉も東京五輪は2走だったので迷ったのですが、3走は難しい上に短期間でチームを作り上げなければならない状況を考えて、日常的に指導できることから3走に選んだ(福岡大で信岡コーチの元、兒玉は練習しているため)」と話すが、大舞台でこれからのチームの柱になれる走りを見せた。

「今後を考えれば、今回は補欠だった青山選手も東京五輪の1走はすごくよかったから、春先に11秒47を出した状態だったら42秒台突入の力になったと思います。また東京まで4走で安定した走りをしていた鶴田玲美選手(南九州ファミリーマート)も、前半型ではないのに100mで11秒48を出しているので、その頃の調子が戻ってくれば大きな戦力になる。さらに今回経験した御家瀬選手も、力どおりの走りができればさらに期待できるし、他にも伸びてくる選手がいてメンバー争いが熾烈になればさらに面白くなる。今でも43秒0台までいく力はありますが、『決勝までもう一歩』と思えるのはすごく大きい。42秒台が出れば、女子短距離の流れも一気に変わってくると思います」

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