宇野昌磨の新境地 師匠の「魔術」や高橋大輔の滑りを新プログラムに落とし込む (3ページ目)

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

【師匠の"魔術"を演技に落とし込む】

 そしてこの夏、宇野は人気アニメのアイスショー『ワンピース・オン・アイス』で主人公のモンキー・D・ルフィ役を演じた。彼は快活なキャラクター、ルフィそのものになった。そこで見せつけた演技力は、表現者としての勝利だったと言える。

 だからこそ新しいフリープログラムも、宇野はスケーターとして次の境地に自らを導くような難しいものを選びとったのだろう。

 高度なスケーティング技術はもちろん、肩甲骨や股関節の柔らかな動きなど、体全体で表現することが求められる。スローな動きを丁寧に正確に行なうほうが、少しのズレも許されないだけに、筋肉の負担は大きくなるのだ。

 この日の『カーニバル・オン・アイス』、宇野の師匠であるステファン・ランビエルコーチも匂い立つような色気で、渾身の演技を見せている。スローな動きのなかに、静が動を生み出す錯覚があった。

 ゆったりとした動きで表現をするには、体を十全にコントロールしなければならない。時間を操ることで、空間をゆがめて異世界に誘うような"魔術"に近いだろう。

 宇野は、ランビエルの"魔術"を自分に落とし込み、表現者としてより高いステージにたどり着こうとしている。

 初お披露目のプログラム、ジャンプは単発だけだった。セカンドはつけていない。7本跳んだが、構成はこれからだろう。トーループ、フリップ、ループなど複数の4回転ジャンプを入れることになるはずだが......。

「スケーターとしてこうなりたい、というものを見つけていきたい」

 宇野は飄々と言う。彼のプログラムは、スコアや成績という小さな枠でもはや捉えきれない。探究者は、フィギュアスケートの深淵に迫る。

プロフィール

  • 小宮良之

    小宮良之 (こみやよしゆき)

    スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。

3 / 3

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る