宮原知子の演技に後輩号泣 坂本花織も「一日限定の復帰はもったいない」と感嘆 (3ページ目)

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

【坂本花織も称賛「もうちょっとやってほしい」】

 現役最後のインタビュー、宮原にこう尋ねたことがあった。

ーー浅田真央選手以後、日本女子フィギュアをけん引してきましたが、勝者の愉悦の瞬間をひとつだけ挙げるなら?

「なかなかひとつにしぼれないですけど、平昌五輪後のシーズン、NHK杯で2位だったんです。五輪の後だから気が抜けるという演技をしたくはない、と挑んだシーズンだったので、そこでいい練習ができてしっかりメダルをとれたのは、自分がつかんだ勝利だなって思えます」

 彼女は大きなタイトルをとった試合がいくつもある。にもかかわらず、グランプリ(GP)シリーズで2位になった試合を挙げた。その生き方こそ、宮原の本質なのだろう。スケーターとして、人並外れて求道的なのだ。

 プロスケーターになっても、その原点は変わっていない。だからこそ、今回は競技者にもすぐ戻れた。表現者として、そこに大きな溝は存在していない。

「ジャンプはいけそうな構成をしぼり出した感じです。現役の時よりちょっとしんどいのはありましたが、想像しているよりはすんなり入れて。思ったよりも、4分間を滑りきれるなって」

 宮原はそう語っていたが、"一日限定の復帰"は、その生き方が濃縮されていた。

 チームジャパンのひとりとして共に戦った島田高志郎は、宮原がスタートポジションをとった時の表情だけで涙が込み上げてきたという。どうにかこらえたが、内から出る感情が肌で感じられて、演技後はもはや涙が止まらなかったという。

「おかげで緊張とか嫌なものを流せて、スッキリして演技できました」と島田は宮原に感謝していた。

「まさか、感動で涙を流してもらえると思っていなかったので......」

 宮原はそう言ってうれしそうに笑い、表情を輝かせた。

「久しぶりの試合で、短期間での準備で不安もあったんです。でも、練習でできる限りのことを一個一個やってきました。本番でも練習と同じようにチームに貢献したい、と思っていたので。皆さんのおかげで優勝できてうれしいです!」

坂本花織と抱き合う宮原(左)坂本花織と抱き合う宮原(左)この記事に関連する写真を見る スケーターとして、宮原の世界はこれからも広がり続ける。その演技はスケーターを感化させるほどに濃密だ。世界女王の坂本花織も「心揺さぶる演技で、一日だけの復活はもったいないなって。もうちょっとやってほしいなって」とリクエストしていた。

「曲に入り込んで滑ることができて、本当によかったなって思います」

 そう語った宮原は、これからも氷上の表現を極める。

プロフィール

  • 小宮良之

    小宮良之 (こみやよしゆき)

    スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。

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