鍵山優真が直面した五輪メダリストという重圧。ミスの背景に「『もしかしたら』の気持ちが心の端にあったかも」 (2ページ目)

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by Getty Images

 それでもステップはリズム感や躍動感のある鍵山らしい滑りでレベル4にし、最後のコンビネーションスピンも高い評価を得て、105.69点を獲得。合格点と言える滑り出しをした。その2人あとの宇野が、純粋に「うまくなりたい」と思うだけの乱れのない心境をそのまま演技にしたような滑りで、自己最高の109.63点でトップに立ったが、その差は3.94点。北京五輪の団体戦フリーで208.94点を出している鍵山とすれば、十分に戦える点差だった。

 そして、3月26日のフリー。五輪の個人戦では4分の1の回転不足になってしまった4回転ループは、「五輪から調子が上がっていないので、とりあえずは降りることだけを考えている」という状態だった。しかし、「結果どうこうより、シーズン最後の試合として悔いを残したくないと思っている」と、構成に入れることを決断。だが、心の奥にあった「もしかしたら」という思いに影響されてしまった。

 最初の4回転サルコウは、SPと同じような高い完成度で滑り出したが、次の4回転ループはダウングレードと判定される両足着氷。それでも、そのあとの4回転トーループとトリプルアクセル+3回転トーループは流れのあるきれいなジャンプにして立て直し、後半の4回転トーループ+1オイラー+3回転サルコウもしっかり決めて不安を感じさせなかった。

 だが、次の連続ジャンプが得点源にしている3回転フリップ+3回転ループではなく、3回転フリップ+2回転トーループとなり、次のトリプルアクセルはシングルになるミスを続けてしまった。そのあとのコレオシークエンスからは鍵山らしい魅せる滑りをしたが、得点は191.91点と伸びず、合計は297.60点。その時点でビンセント・ジョウ(アメリカ)を上回ってトップに立ったが、最後の宇野が好調なだけに、優勝の望みはほぼ消滅。最後の宇野はミスのある滑りになったが、合計を312.48点にして初タイトルを獲得し、鍵山は2年連続の2位という結果になった。

「五輪のようにはうまくはいかなかったけれど、ショートがよかったこともあって最後の最後になってすごく緊張してしまいました。それが演技に出てしまったというのがミスの原因だったと思うし、後半は苦しかった部分もあって全力を出しきれなかった。ただ、4回転ループに挑戦できたことはこれからの経験になったと思うし、アクセルやフリップ+ループが跳べなかった不完全燃焼感というか悔しさもあるので、来シーズンにもっと成長させていければいいと思います」

「格上の選手に挑戦する」という思いでのびのび滑った結果だった。

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