錦織圭「奇跡の9カ月」の再現なるか 復活への道のりで思い出す2018年の快進撃 (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by Kyodo News

【5年前は初戦敗退からスタート】

 優勝者がセレモニーで、主催者やファンたちに「来年もまた戻ってきます」と宣言するのは、ウイナースピーチの慣例。

 この時の錦織も「来年もまた......」と言いかけるが、しばし言葉を切ったあとに「戻ってこないかな?」と困ったように続けて、観客の笑いを誘った。それは、来年のこの時期にはもうチャレンジャーに出るレベルにはいない、という意志表示。

 果たしてその言葉どおり、錦織は復帰戦のわずか9カ月後には、年間レースの上位8名のみが出場できる「ツアーファイナルズ」の舞台にいた。

 出場者たちがオーダーメイドのスーツに身を包み、ロンドンの夜景を背後にパーティやフォトシューティングを行なう、テニス界で最も絢爛な選ばれし者たちの集い。

 その大会開幕前日に、こんな一幕があった。

 選手が互いに動画を撮り戯れるなかで、錦織に「今季、最も思い出深い出来事は?」の質問が飛ぶ。

「チャレンジャーの初戦で負けたこと」

 いつもの朴訥な口調で錦織がそう言うと、「そうだった! 信じられないよ!」の言葉とともに、選手間からドッと笑い声が上がった。

 チャレンジャー初戦敗退からスタートしたシーズンで、最終的にこの地位にいる。それがいかに偉業であるかを誰よりも熟知するのは、その場にいた選手たちだからだ。

 なお、この2018年ツアーファイナルズ出場選手をランキング上位から記すと、次のようになる。

 ノバク・ジョコビッチ(セルビア/当時31歳)、ロジャー・フェデラー(スイス/当時37歳)、アレクサンダー・ズベレフ(ドイツ/当時21歳)、ケビン・アンダーソン(南アフリカ/当時32歳)、マリン・チリッチ(クロアチア/当時30歳)、ドミニク・ティーム(オーストリア/当時25歳)、錦織圭(当時28歳)、ジョン・イズナー(アメリカ/当時33歳)。

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