ラグビー帝京大、異次元の強さの理由。早稲田大に歴史的圧勝で、常勝時代に突入か (4ページ目)

  • 松瀬学●文 text by Matsuse Manabu
  • 齋藤龍太郎●撮影 photo by Saito Ryutaro

【仲間が見ているぞ!】

 後半、窮地を迎えると、ピッチ上の帝京大選手から、こんな大声が飛んだ。

「仲間が見ているぞ!」

 仲間とは、試合に出られないスタンドの部員たちのことである。学生スポーツは貴い、とつくづく思う。スクラム、フィールドプレーで活躍したHO(フッカー)、江良颯(はやて)にも、強さの秘密を聞いた。こう、応えた。

「みんな、仲間のためにからだを張り続けるからです。出ているメンバー全員が、やるべきことを理解しているからです」

 そういえば、SO高本も同じようなことを口にした。今季の目標はまず、優勝した昨季のチームを越えることだった。昨季は細木康太郎主将(現東京サントリーサンゴリアス)の強烈なキャプテンシーで大学王者となった。

「今年のチームは、去年より、チームワークがいいのかなと思います。細木さんの代が残してくれたものを土台として、今年1年、さらに積み上げられました。だから、こんな大量点差になったんだと思います」

 これが、よきクラブ文化の継承なのだろう。よく見れば、SO高本の左手甲には黒マジックの文字が消えかけていた。スタッフから試合直前、こう書かれたそうだ。<ミキヤなら大丈夫。自信を持って楽しんで>

 司令塔は笑った。顔面の傷跡が痛々しいが。

「今日もゲームを楽しめました」

【最高のバトンタッチ】

 SO高本ら4年生は、リーグワンのチームに進む。SO高本と一緒に入学した李承信(1年で退学)は既にコベルコ神戸スティーラーズで活躍し、日本代表入りを果たしている。

 SO高本は、「そこは意識しています」と言った。「将来、自分を成長させるため、海外でもプレーしたい。もちろん、日本代表でもプレーしたいです」

 決勝戦の先発15人中10人は3年生以下だった。HO江良、FL奥井章仁、ナンバー8延原らが3年生、FL青木はまだ2年生。このままだと、帝京時代が続くことになる。

大学ラグビー界の盛り上がりを考えると、早大など他大学の奮起を期待したいところだ。創意工夫、強化プラン、フィジカル強化策、環境改善、そして練習での向上心、意識の徹底......。


就任1年目で日本一を達成した帝京大・相馬朋和監督就任1年目で日本一を達成した帝京大・相馬朋和監督 そういえば、相馬監督のあと、岩出さんも11回、胴上げで続けて宙に舞った。ミックスゾーンでの別れ際、岩出さんに"監督のよきバトンタッチと表現していいですか?"、と声を掛ければ、64歳は冗談口調で言った。

「もちろん、最高です。サイズ以外は」

 常勝・帝京時代の到来か。その強い歴史の糸が紡がれていく。

【著者プロフィール】松瀬学(まつせ・まなぶ)
スポーツジャーナリスト。日本体育大学スポーツマネジメント学部教授。元共同通信社記者。長崎県出身。早大ラグビー部ではプロップで活躍。1987年の第1回大会からすべてのラグビーW杯を取材。また夏季五輪も1988年ソウル大会から2021年の東京大会まで9回取材している。著書に『荒ぶるタックルマンの青春ノート 石塚武生のラグビー道』(論創社)、『ONE TEAMのスクラム 日本代表はどう強くなったのか?』 (光文社新書)など。

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