F1エンジニアの仕事をハース・小松礼雄に聞く クルマを「おいしく」する苦悩と醍醐味 (2ページ目)

  • 熱田 護●取材・文 text by Atsuta Mamoru

【最終的な戦略を決断するのが仕事】

ーー小松さんはチームの技術面を統括するエンジニアリングディレクター。どんな仕事をしているのですか?

 僕はサーキット現場の部署の仕事を持っていますが、イギリスのファクトリーにある、クルマの性能に関わる部署も統括して見ています。具体的には、マシンのデータ解析、シミュレーション関係、制御、研究開発のスタッフですね。彼らの仕事を管理しつつ前に進めていく。いわゆるエンジニアリング部隊のまとめ役です。あとはレースの準備ですね。その両方を見ています。

 空力とデザインはまた別の担当がいて、僕の管轄ではありません。シミュレーションのデータをもとに、クルマの長所と短所を把握して、今後はどういう方向で開発していけば性能が向上するかを提案するのが僕の役目です。設計や空力の担当者と議論をして、マシン開発の方向性を決めていきます。

ハースのマシン photo by Atsuta Mamoruハースのマシン photo by Atsuta Mamoruこの記事に関連する写真を見るーーレースウィークではどんなスケジュールで仕事をされているのですか?

 ヨーロッパ以外のサーキットで開催されるフライアウェイのイベントの場合は、水曜には現地入りしています。ヨーロッパのレースは、木曜の朝から。現場に到着する前にファクトリーの各部署のスタッフたちとどういう方向性で戦うのかを議論しているので、サーキットに来てからはもうプランを実行するのみ。部品は届いているか、マシンの組み立てはうまくできているか、事前のプランどおりに物事は進められているか、というのを全部確認して、木曜は最後のまとめをします。

 クルマを組み上げてエンジンをかけて、すべてのシステムが問題なく機能しているかをチェックして、車検に通るようにしておく。さらに金曜から始まるフリー走行についてミーティングします。金曜朝にみんな集まって、基本的にはドライバーがマシンに乗り込めば走れる状態にしておきます。フリー走行のあとは、そのデータを分析して、予選をどういうプランで臨むかを決めていきます。

ーー決勝の戦略を決めることも小松さんの役割なのですか?

 最終的な決断は僕が下しますが、チームにはもちろんレースの戦略を専門に担当するストラテジストがいます。まずは過去のデータからレース戦略がどうなるか予測できるので、それをベースにフリー走行の走り方を決めます。そしてフリー走行後にストラテジストは、タイヤ担当のエンジニアたちとともにデータを見て各スペックのタイヤの性能や耐久性を把握し、レースでのタイヤの使い方を提案します。

 その後、ドライバーも含めて話し合って、レース戦略のベースを日曜朝までに決める。実際のレース中は刻々と変わる状況のなか、常に新しい情報がそれぞれの担当者から上がってきます。その情報を集約・分析して、責任を持って最終的な戦略を決断するのが僕の仕事です。

2 / 3

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る