カタールW杯でもメッシ、ロナウド、モドリッチが...高齢スター選手が増えたのはなぜか (4ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

最も優秀な選手たちの高齢化が進んでいる

 アスリートが体をどんなにケアしても、30歳になる前までに肉体は衰える。まず柔軟性が失われる。次に20代後半から、心臓血管の耐久力が落ちてくる。同じ頃、筋力が衰えはじめる。反応時間も遅くなる。30代になると筋肉と骨の量が減りはじめ、強靱さが失われていく。一方で、ケガの頻度が増える。

 どうやら、ふたつの矛盾する事実があるようだ。ひとつは、男性スポーツ全体で見た時に選手寿命が長くなっているというわけではないということ。もうひとつは、そうは言っても、さまざまなスポーツで最も優れた選手のなかに年を重ねたアスリートが増えているということ。このふたつをどう説明づければいいのか。

 ここで押さえておきたいのは、アスリートの高齢化が話題になるのは、今が初めてではないということだ。2000年代後半から2010年代初めにかけて、40歳を超えるフットボール選手が目立った時期があった。ACミランのパオロ・マルディーニやアレッサンドロ・コスタクルタ、あるいは当時最強だったマンチェスター・ユナイテッドのライアン・ギグスやエドウィン・ファン・デル・サール......。

 他のスポーツにも仲間がいた。マルチナ・ナブラチロワが全米オープンの混合ダブルスで最後に優勝したのは49歳の時。バリー・ボンズが2007年にMLBを43歳で引退する少し前だ。

 僕はナブラチロワに、その年齢で活躍できる秘訣を尋ねたことがある。彼女はダイエットの話をした(「にんじんジュースを飲みすぎて肌がオレンジ色になったこともあった」)が、こう白状した。

「正直言って、どうして今もプレーできているのか、私にもわからない。今の私は、たいていの選手たちのお母さんよりも年上。でも時速105マイル(約170キロ)のサーブを打てる。この年齢まで続けたアスリートで私が知っているのは、(アイスホッケーのNHLで51歳になってもプレーした)ゴーディ・ハウだけね」
(つづく)

【著者プロフィール】 サイモン・クーパー ジャーナリスト。1969年、ウガンダ生まれ、オランダ育ち。英『フィナンシャルタイムズ』紙でコラムニストを務めるほか、各国メディアに執筆している。主な著書に『サッカーの敵』『ナノ・フットボールの時代』『「ジャパン」はなぜ負けるのか 経済学が解明するサッカーの不条理』(共著)など。

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