【Jリーグ】がけっぷちの男、李忠成の思い。「Jに来たのは後退じゃない」 (2ページ目)

  • 吉崎エイジーニョ●取材・文 text by Yoshizaki Eijinho
  • photo by HouchiShinbun/AFLO

 ピッチ上では、これまでのイメージと少し違った面を見せている。24日のプレシーズンマッチ、ザスパクサツ群馬戦では左アウトサイドで出場。開幕直前の28日の練習では、右アウトサイドに入るシーンも見られた。

「もちろん、ゴールを狙うためにはそこに一番近い1トップの位置がいい」という思いがありながらも、左右でのプレイはどちらでも受け入れられると言う。1トップと両サイドで熾烈なポジション争いに挑むシーズンになる。

「自分は石川ナオ(直宏)さんのような、ドリブル、クロスが特長の選手ではない。中に入って仕事をすることが多くなると思う。チームメイトにもその点を伝えることを考えてきました」

 一方で、李忠成というアタッカーの最大の特徴は、メンタリティにある。

 決断のできる男。李にはそんなイメージが強い。日本国籍を取得した07年、その直後にじっくりと話を聞いたことがある。当時22歳の若者が、こんな話をしていて驚かされた。

「日本国籍に変えた以上、もう戻れない。周囲の人も"在日から帰化した最初の日本代表選手"として、厳しく見ているから進むしかない。そういう覚悟が自分にできたことは大きなプラスです」

 今回の移籍にもやはり、覚悟はあったのではないか。ちょっと踏み込んだ聞き方をしてみた。

――イングランドでの負傷(12年3月の右足人差し指骨折)から回復後、ベンチに入りはじめた頃の移籍でした。もったいなかったな、という印象もありますが......。

「たしかに、新しく来たマウリシオ・ポチェッティーノ監督も評価してくれていて、ちょっと悩むところもあった。むしろベンチ外くらいのほうが、すっぱりと決められたかなと。でも自分にとっては、そこまでの1年間を無駄にしたという思いのほうが強かったんです。今年28歳だし、もう少しも立ち止まることはできなかった」

 もうちょっと先に何かがあるかもしれない。そんな淡い期待を持つよりも、リアルに1年という不本意な時間を過ごしたことを悔いる。そこにこそ、今年の李の見どころがある。こんな話もしていた。

「自分が否定されるような状況に置かれると、反発する気持ちが動く。帰化したときもそうだった。今回も普通に見れば『ヨーロッパからJリーグに来たのは後退』と見られるでしょう。そうじゃない、という点を見てもらいたい。自分がヨーロッパに行った決断が正しかったのだと」

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