江川卓の作新学院に4戦全敗 「勝つためには何でもする」と銚子商が「打倒・江川」に燃えた雨中決戦 (3ページ目)

  • 松永多佳倫●文 text by Matsunaga Takarin

【誰もがサヨナラと思ったが...】

 一方で、キャッチャーの木川は斉藤から執拗な指示を受けていた。

「江川を打たせるとピッチングも乗ってくるので、『とにかく抑えろ』と言われました。キャッチャー目線で言うと、江川がピッチングよりもバッティングのほうが好きだったんじゃないかと思います。遠くへ飛ばす技術がありましたし。江川は重量のあるルイスビルと、軽いISHIIのバットを2本持っているんです。2本のバットの特性は、練習試合の時にわかりました。大きいのを狙う時はISHIIのバット、ミート中心の時はルイスビル。バットを見ると、その打席の江川の狙いがわかりました。だからISHIIのバットの時は、インコースでカウントを稼いで、体が開いてきたらアウトコースで勝負」

 この試合、銚子バッテリーは江川と5度対戦して、ふたつの四球を出したが無安打に抑えている。

 試合は0対0のまま延長に入った。10回裏の銚子商の攻撃。雨は止むどころか激しさを増し、グラウンドには水溜りができていた。

 この回先頭の7番・磯村が三塁打を放ち、無死三塁とサヨナラのチャンスをつくる。それでも江川は表情を変えることなく、次打者の土屋正勝を三振。9番打者を歩かせ一死一、三塁となり、打席には1番の宮内。ここで銚子商はスクイズを仕掛けるも、作新バッテリーが見破り、三塁ランナーが挟まれアウト。

 ピンチを脱したかに見えたが、宮内が四球で歩き、二死一、二塁。ここで2番・長谷川泰之の打球は一、二塁間を破り、ライトの和田幸一がファンブル。二塁走者の多部田英樹がホームに突っ込み、誰もがサヨナラと思った瞬間......キャッチャーの亀岡(旧姓・小倉)偉民の猛ブロックでタッチアウト。

「ランナーが球を見ずに私をめがけて走ってきたから、ベースの手前でボールが来たように擬似捕球の態勢に入ったんです。左ヒザ付近にヘッドスライディングしてきたんですけど、まだこの時ボールは来ていません。主審の方が回り込んだ時にやっとボールが来て、アウトになったんです」(亀岡)

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