斎藤佑樹の心を蝕んでいった「函館のトラウマ」 真っすぐをストライクゾーンに投げることが怖くなった (2ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Sankei Visual

 1回、栗山さんを歩かせたあと、満塁のピンチで(6番のエステバン・)ヘルマンにインコースへのストレートを詰まりながらライト前へ運ばれてしまい、2点をとられてしまいました。さらに(7番の)大﨑(雄太朗)さんにも高めのストレートをライト前へ弾き返されて、さらに2点。2回にはショートの飯山(裕志)さん、ライトの糸井(嘉男)さんという守備の名手に、よもやのエラーが続きました。秋山(翔吾)にもライトオーバーのスリーベースヒットを打たれて、最後はせっかく捕ったピッチャーゴロを僕自身がサードへ悪送球。これで9点目を失って、もう、悪い流れを食い止めることはできませんでした。

 2回途中でのノックアウト......あの試合は、とにかくショックでした。ピッチャーとしての恐怖心を植えつけられてしまったというか、どうしたらいいのかわからないということがあり得るんだと思わされた試合でもありました。やたらと打たれまくりましたし、自分のミスもあった。

【植えつけられた恐怖心】

 試合が終わったあと、吉井(理人、当時のピッチングコーチ)さんに「犬のフンを踏んだと思いなさい」と言われて、最初はその言葉の意味がよくわかりませんでしたが(苦笑)、よくよく考えたら歩いていて犬のフンを踏むことなんてそうそうあることじゃないんですよね。踏んでしまったとしても何かが変わるわけじゃないし、だったら忘れてしまえばいい、という意味だったのかな、と......吉井さんは「全部を水に流せばいい」と言ってくれたんです。

 もちろんそんなふうには思えませんでしたが、「過ぎ去ったことだから、あの試合を踏まえて、何かを変えるとか、そんな必要はない」「とにかくこの試合のことは忘れなさい」という吉井さんの言葉には本当に救われました。

 よし、忘れようと思いましたが、人間、あれほどのショックをそう簡単に忘れられるはずがありません。植えつけられた恐怖心は、僕のピッチングをすごく慎重にしてしまいました。真っすぐをストライクゾーンに投げることへの恐怖心......今となっては、それがいつしか僕の心を蝕んでいったような気がします。

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