巨人投手陣を救う。小山雄輝を急成長させたノート (3ページ目)

  • 高森勇旗●文 text by Takamori Yuki
  • photo by Nikkan sports

 フォームが自分のモノになりつつあった5月、交流戦で首位を争っていた一軍に、ローテーションの谷間ができた。そこに抜擢されたのは、小山だった。

「まだいい時も悪い時もあって、すごく不安だった。けど、やるしかなかった」

“とりあえず3回まで投げてくれ”と、ベンチからは全く期待をされていなかった小山だったが、なんと7回を無失点で抑える。快投を見せた小山の右腕には、確かな手応えが残っていた。

「中田翔や大谷翔平がストライクゾーンのフォークを空振りするのを見て、『あっ、イケる』って思った。相当見えづらくなっているんだと、自分で手応えを掴んだ。この日は、フォークに相当な自信を得て、“フォーク祭り”やったね」

 向かっている方向が間違いでないことを確信した小山の成長は、加速する。

 次の登板もローテーションの谷間であったが、千葉ロッテを相手に初完投勝利。勝った方が優勝というソフトバンクとの大一番でも先発を務め、勝利投手に。2年ぶりの交流戦優勝に大きく貢献した。

 急成長を遂げた小山に起こった変化は、技術的なことだけではない。取材を通して感じたことは、むしろ心の変化の方がはるかに大きいということだ。

 小山が語る。

「巨人では、春先にどんなに調子が良くてもチャンスがない。だって一軍では杉内(俊哉)さんがノーヒット・ノーランやってるし、内海さん、菅野(智之)、みんな万全。オレがどんだけよくても見向きもしてくれない。だから、夏頃に照準を合わせて、まさに谷間を狙っていた。それが、巨人で生き残る術だと……去年までは思ってた。でも、今年は違う。春から全力。絶対に自分の手でローテーションを掴む。“奪取”する。“谷間の小山”を卒業するっていう強い気持ちで投げ続けた」

 運が強いと言っていた、冒頭の小山はもういない。次第に熱を帯びていく会話。ギラリと光る目は、マウンドの上と同じである。前のめりになった小山は、さらに続けた。

「(二軍投手コーチの)尾花(高夫)さんに言われて、今年は全投球のチャートを自分でつけるようにした。打たれたボールは赤、空振りや凡打の内容も細かく色分けして、自分の投球を分析した。そしたら、見える見える。どんなボールで空振りを取れて、どのコースがよく打たれているのか、自分の投げるすべてのボールに意図を持つようになった」

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