高校野球の変化とともに勝てなくなっていった四国勢。高松商業が躍進、「守り勝つ野球」の逆襲となるか (2ページ目)

  • 元永知宏●取材・文 text by Motonaga Tomohiro
  • 大友良行●撮影 photo by Ohtomo Yoshiyuki

 四国の有望な選手が九州や東北の高校に入学することも珍しくなくなった。高校野球を長くリードしてきた四国勢が以前のように勝てなくなったのはちょうどその頃からだ。

 2006年以降、四国勢の夏の甲子園における初戦勝率は.404。ベスト4に残ったのは2012年の明徳義塾、2018年の済美だけ。

 澤田元監督は言う。

「各都道府県で強豪私立がどんどん力を伸ばし、それまで伝統的に強かった公立の商業高校がなかなか勝てなくなりました。私が指揮を執った松山商業が最後に甲子園に出たのが2001年。それ以降、ずっと甲子園から遠ざかってしまっているわけです。

 今は、個人の能力があれば、チーム力がなくても勝てる時代になったと感じています。組織よりも個の力を重視する野球ですね。力と力の戦いになりました」

「四国野球」の逆襲が始まる

 今年の夏の甲子園でも、四国勢3校がすでに姿を消した。残っているのは、夏の甲子園を2度制した実績を誇る高松商業だけだ。

 1回戦の佐久長聖戦で、浅野翔吾の2本のホームランなど16安打を集めて快勝した高松商業は、2回戦で九州国際大付と対戦。1回にトップバッターの浅野が内野安打で出塁し、すぐに盗塁に成功。四番の山田一成のタイムリーヒットを呼び込んだ。

 投げてはサウスポーの渡辺和大が9回を7安打、1失点の好投。1970年以来、52年ぶりのベスト8進出を決めた。守備陣はノーエラーの固い守りで渡辺を盛り立てた。

「今日は守り勝つ野球ができた。でも、守り勝つ野球ができたら、なぜ攻撃がおろそかになるのかわからない」と、高松商業の長尾健司監督は厳しいコメントを残した。

「ここまで来たら、うちよりも上のチームしかない。目の前のひとつひとつのアウトに集中してプレーするしかない」

 2016年春のセンバツでこの古豪を準優勝に導いた名将は、あくまで謙虚だ。

 試合中、長尾監督の叱責が飛ぶことも多い。キャプテンの浅野がチームメイトを励まし、鼓舞する。「浅野はいつも前向きです。どんなことが起こっても選手が下を向かないようにするのがキャプテンの仕事」と長尾監督の評価は高い。

「浅野には全打席出塁を期待しています。それができたら、一番バッターとしては最高ですから」

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