マラソンでパリ五輪を狙う細田あいのターニングポイント 悩みから抜け出し感動した瞬間 (3ページ目)

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • photo by YUTAKA/アフロスポーツ

【マラソン挑戦は高橋尚子に憧れて】

 細田がマラソンに興味を持ち始めたのは、小学生の頃だった。

 シドニー五輪で高橋尚子が金メダルを獲った姿を見て、自分もいつかは金メダルを獲りたいと思い、マラソンに傾倒していった。中学1年の時には、全校行事でマラソンを走り、すごく楽しかったという。フルマラソンだったが、そこで細田は女子の大会記録を生んだ。この時からマラソンを走るセンスをすでに持ち得ていたのだ。

 細田が初めてマラソンの大会に挑戦したのは、2019年の名古屋ウイメンズ。2時間2927秒で、総合18位だった。

1年目でのマラソンで、東京五輪のMGCの出場権を得られるレースだったので狙っていったんですけど、全然話にならなくて...。ケガで思うように練習が積めなかったですし、レース中にも故障して思い描いていたレースではなかったんです。でも、レッドカーペットみたいなところを通過してゴールするとすごい歓声で、走破できたんだという達成感がありました。その時、またマラソンを走りたいと思えたので、そこは良かったです」

 結果自体は、納得のいくものではなかったが、このレースへのアプローチは、細田にとって非常に有意義だった。当時、ダイハツに所属しており、チームの先輩である前田彩里とともに練習を消化していく中で、学ぶことが多々あったという。

「最初、マラソンに向けて、どういう練習していけばいいのか分からなかったんです。マラソンで結果を出していた前田さんについていけば、自然と先輩に近づけるかなと思い、必死に練習についていきました」

 前田の練習メニューを一緒に消化し、それをこなしたことで自分に合ったやり方を見つけることができた。ついていけない練習があった時は、そこについていけるようになるためにはどうしたらいいのか、考えて走るようになった。また、ポイント練習以外での練習や動き作りなどを見て、マラソンを走る人はこういうことをしているんだと気付くことができた。

「たぶん自分ひとりでは、与えられたメニューをやっているだけで、特にいろいろ考えもせず、これで本当に記録が出せるのかなって感じで進んでいったと思うんです。でも、前田さんと一緒に練習することで、ここまでやればこのくらいのタイムを出せるだろうという手応えを得て、取り組めました。練習以外でもトラックとは違う気持ちの持ち方や生活の部分などを学べたので、それが今の競技生活にも活きています」

 その翌年、20203月の名古屋ウイメンズでは2時間2634秒で総合8位に入った。これからさらに上のタイムを狙って行こう、さらに飛躍しようと思っていた矢先、新型コロナウイルス感染症が大流行した。

 ここから細田は、引退を決断するほど、追いつめられていった――

後編を読む>>引退寸前からMGC出場へ 細田あいが高橋尚子からのアドバイスを受けて描くレース展開

PROFILE
細田あい(ほそだ・あい)
1995年11月27日生まれ。長野東高校から日本体育大学へと進学し、本格的に駅伝に取り組みはじめる。1年時から全日本大学女子駅伝に出場するなどし、「日体大のエース」と呼ばれるまでに。卒業後、ダイハツ→エディオンと進み、2022年開催の「名古屋ウイメンズ2022」で2時間24分26秒を記録し、MGCへの出場権を獲得。同年10月に開催された「2022ロンドンマラソン」において日本歴代8位となる2
時間21分42秒を記録した。

プロフィール

  • 佐藤 俊

    佐藤 俊 (さとう・しゅん)

    1963年北海道生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、出版社を経て1993年にフリーランスに転向。現在は陸上(駅伝)、サッカー、卓球などさまざまなスポーツや、伝統芸能など幅広い分野を取材し、雑誌、WEB、新聞などに寄稿している。「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「箱根0区を駆ける者たち」(幻冬舎)、「箱根奪取」(集英社)など著書多数。

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