東京五輪後は超弱気だった泉谷駿介の成長過程 世界標準の走りでパリ五輪メダルを狙う (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by Nakamura Hiroyuki

【自信を積み上げて迎えた世界陸上】

 今回の世界陸上は自信を持って臨んだとはいえ、これまでとは違って自身も周囲も決勝進出を期待するレースで、予選から緊張感が違った。それでも「緊張したけど、ダイヤモンドリーグで学んだこともあるので」と話すように、余裕のある走りで2位になり、全体8位で準決勝進出。「トップ選手と走っても焦らなくなった。今日も横の選手が見えても焦らなかったけど、ちょっと技術が噛み合わないところがあって2位になった」と冷静に分析していた。

 準決勝は、6レーンを走る泉谷は5レーンのダニエル・ロバート(アメリカ/自己記録13秒00)を追いかける展開。

「準決勝はちょっとハードリングが浮いてフワッとした感じになってしまったけど、その分インターバルの走りでしっかり稼ぐことができました。横の選手に最初は(前に)出られるのはわかっていたので、そこは落ち着いて対応できました」

 そこから徐々に差を詰めていくと、最後のハードルを越えてからスッと前に出るこれまでの日本選手にはない強さを見せ、ノルマとしていた同種目日本人初となる決勝進出を達成。「お見事!」という内容のレースだった。

 決勝は、準決勝を終えてから1時間半後という厳しいスケジュール。それでも「緊張感もなく楽しい感じでいつもどおりにスタートラインに立てたし、楽しい気持ちでいっぱいでした」という泉谷。1台目のハードルをしっかり超えたが、2台目と6台目、9台目は尻がハードルに乗ってしまうなど、ハードルに触れる走りになってしまった。

「スターティングブロックを蹴った瞬間に両足のふくらはぎが攣ってしまったのと、腰のナンバーゼッケンが手に貼りつくなど、いろいろ気になることがあって焦りまくってしまいました。そのなかでも腸腰筋を使う感じでふくらはぎと足首を固めてタッチするような体の使い方に切り替えられたので、あの状態のなかではいい走りができたと思います」

 優勝は隣の5レーンでシーズンベストの12秒96を出したグラント・ホロウェイ(アメリカ/2019年、2022年世界選手権優勝)だったが、「ちょっとは意識していましたが、後半は落ちるだろうなと思っていて......。でも足が攣ってしまったので、彼を見ている暇はなかったですね」と笑う。

初めての決勝はアクシデントでガタガタの走りになってしまったが、それでも13秒19でまとめて5位入賞。悔しさはありつつも笑顔でこう振り返る。

「準決勝の調子がよかったので、そこから少し修正してゼロ台を出したらメダルもあるかなと思ったけれど、自分の走りをするので精一杯でした」

 2位のパーチメントが13秒07で3位のロバートは13秒09だっただけに、メダルの可能性は十分ある結果だった。

2 / 3

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る