36歳のマラソン佐藤悠基は「ベテラン」という言葉に違和感 「本気で世界を目指している選手にとって年齢は関係ない」 (2ページ目)

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • photo by 築田純/アフロスポーツ

【感覚を麻痺させる思考回路を作りたい】

 そのMGCは23位に終わり、このレースの難しさを痛感したという。

「走って思ったのは、普通のマラソンとは違う強さが求められていることですね。通常のマラソンだとペースメーカーがついてキロ3分前後で進んでいきますが、MGCはそれがつかない完全な勝負レース。冬のレースに比べると暑さという点でもそうですし、地力がないと最後の勝負どころまで生き残っていけない。そこからラストの勝負に勝つためには、ベースの地力を上げていく必要があると思いました」

 次回のMGC(10月15日開催)では、その時の教訓が活かされそうだ。

「次回のMGCは、消耗戦だと思っています。10月はまだ暑さもあり、コースは折り返しが多く、最後は坂もあります。みんな、37、38キロ付近から勝負をかけてくると思うんですが、前回はその勝負どころに自分はいられなかった。そこからラストまでどれだけ余力を残していけるか。そのためにしっかり脚作りをしないといけない。そのキャパ作りが次のMGCにおけるひとつのテーマになっています」

 その脚作り、余力をつくるために何をすべきだと考えているのだろうか。

「これまで量をメインに考えたメニューの時のほうが安定した結果が出ているんです。次回もまずは、長く走ることに対して苦にならないというか、感覚を麻痺させる思考回路を作っていきます。たとえば朝練習でこれまで15キロだったものを25キロにしたり、長く走ることを習慣化していく。量をこなせる体があるうえでスピード練習をこなしていければマラソンを走れる感じになっていきます」

 42.195キロという距離に対して感覚を麻痺させていくために踏む距離を増やしていくが、佐藤は月間走行距離で見るのではなく、週間走行距離を重視している。

「1か月単位ですと、どうしても距離を追ってしまうので強弱をつけるのが難しく、思った以上に疲労が残っていたり、ある瞬間に体が動かなくなったり、ケガのリスクも高いんです。でも、1週間単位だと細かく総合距離を調整し、強弱をつけていくことで疲労をうまく抜くことができる。そうすることで質の高い練習を維持できます。距離は1週間で300キロ前後、増やす時もあればコンディションによって減らす時もあります。しっかり走って、徐々に距離を落としていくなかで疲労を抜いて、フレッシュになったら距離を増やしてというサイクルでいくとうまく疲れが抜けて体に余裕ができてきます」

 細かい調整は、年齢を考慮しての取り組みでもある。加齢とともに「疲れの抜けが違うなど体が変化していく」と佐藤は苦笑するが、36歳という年齢は陸上に限らず、アスリートの世界ではベテランと称されることが多い。

 佐藤は、その言葉に違和感を覚えるという。

「ベテラン選手って、自分のイメージでは力が落ちているけど長くやっている選手って感じですね。でも、キプチョゲ選手(ケニア)は、世界のトップであり続けているから、そういうイメージがないですし、そもそもベテランと呼ばれない。年齢が上がれば経験値で優位に立てますが、逆にパワフルな走りはできなくなってきます。そういう違いが出てきますが、スタートラインに立ったらベテランも若手もない。競技で本気で世界を目指している選手にとって年齢は関係ないと思いますね」

 世界で戦うために臨んだ前回のMGCは23位に終わり、東京五輪にマラソン代表として出場できなかった。来年は、いよいよパリ五輪が開催される。佐藤にとって、五輪はどういう位置づけになるのだろうか。

「僕は五輪に全てをかけるとか、何がなんでも出るとか、そういうふうに考えたことがないです。五輪も1本しっかり集中して走るレースのひとつですし、力をつけるためのひとつの大会としてうまく利用できたらと思っています」 

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