小平奈緒とともに18年間歩んできた結城匡啓コーチ。最後に見せた最高のレースに「出会えて本当にありがとう」

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by AFLO SPORT

 10月22日に地元の長野県で行なわれた、全日本スピードスケート距離別選手権女子500m。これが現役ラストレースだった小平奈緒(相澤病院)は、2位の髙木美帆(日体大)に0秒69差をつける、ただひとり37秒台に入る37秒49で圧勝し、大会8連覇を果たした。会場に集まった6000人の中で最後のレースを滑った小平奈緒会場に集まった6000人の中で最後のレースを滑った小平奈緒 昨年、北京五輪シーズンの初戦だったこの大会で出した記録を0秒09上回る好タイム。彼女が最も充実していた平昌五輪シーズン、その2017年大会の37秒25と、翌2018年の37秒30には及ばなかったものの、この大会で自身3番目のタイムを叩き出した。

 当日のウォーミングアップで、小平は「氷がすごく硬くて、スケートが少し弾かれてしまう感覚があった」と不安を口にしていた。

 それは製氷スタッフが、観客席が満員になれば場内の気温が上がると考えてのことだが、結城匡啓コーチは「ここまでの数日間の氷とは違っていたので、彼女はそういう感度がいいだけに感覚の違いを気にしていたんです。だから『もう1回製氷が入れば大丈夫だよ』と言いました」と説明した。

 レースではそのアドバイスどおりの感覚になった。小平はその感覚をこう表現した。

「もう氷が足にくっついているんじゃないかというくらい、ピタッと寄り添うような感じでスケーティングをしていました。今日は氷が親友になったような感じでした」

 10月3日の会見で、「過去の自分を乗り越えるような滑りができたらいいですが、氷の条件や気圧などの条件が揃わないとタイムは出ない。その時のベストレースをして、出たタイムが私のベストだと思ってゴールを駆け抜けたい」と話していた小平は、試合後こう振り返った。

「2週間くらい前までは、スタートの構えをすると捻挫の痛さが若干残っていてハマりが悪かったのですが、それがドンドンなくなってきていました。一度緩くなった足首を最初の100mで自分の体としてうまく使いきるまでには戻ってなかったですが、10秒44といいスタートが切れてコーナーも身を委ね、バックストレートもいい感じで前の選手を追えました。コーナーのきつい第2カーブの最後のクロスを終えて、直線に入った時はもう転ぶ心配もなくなったので、『ここからは自由に滑ってゴールに駆け込むだけだ』と思い、歯を食いしばってすべての力を出しきってゴールしようと思いました」

 100mからの400mは27秒05という好タイムだった。

「本当に頭が下がる思いです。もしシナリオがあったとしても、なかなかこういう風にうまくいくものではない。それくらいにすばらしいレースだったなと思う」と話す結城コーチは、こうなることを予測していた。

「8月に帯広で氷上合宿を始めて以来、タイムトライアルを含めた500mは今日が4回目でしたが、0秒2ずつよくなっていました。100mからの1周のラップタイムは4日前のレペテション練習でエムウェーブでのベストの25秒台が出ていたので、今日は26秒台から27秒0くらいのラップは出るだろうというのはあった。37秒台前半は出るだろうとは思っていたので、予想どおりでした」

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