週刊少年ジャンプ『ツーオンアイス』を高橋成美は「現役時代に読みたかった」ペアの葛藤を描いた逸茂エルクの思い (2ページ目)

  • 山本夢子●取材・文 text by Yamamoto Yumeko

【ペア選手の未練や葛藤にふたをしない】

ーー高橋さんはそうやって描かれた『ツーオンアイス』を読んでいかがですか?

高橋 毎回すごく楽しくて! 監修の特権で早く読ませていただきますが、それでも待ちきれないくらい(笑)。シーンごとに自分が選手だった頃を思い出したり、選手の頃に読みたかったなという部分もたくさんあるんです。今の悩みについても勇気づけられて、前向きな気持ちにさせてもらっています。

高橋さんはペア選手として2014年ソチ五輪にも出場 写真/事務所提供高橋さんはペア選手として2014年ソチ五輪にも出場 写真/事務所提供ーーペア選手として共感する部分などはありましたか?

高橋 たくさんありすぎてどこを言えばいいかわからないくらいなんですけど、どこだと思います? 先生。

逸茂 私は選手じゃないので......(笑)。

高橋 ペアってやっぱりメジャー競技ではない引け目みたいなところは誰しも持っていて。そういう部分も『ツーオンアイス』では赤裸々にみんなの感情が語られています。普段、ペア選手が本当は思っていても言ったら負けだと思っていることを漫画のなかではみんなが堂々と言っていて、そのうえでペアが好き、ペアを普及させたいと一致団結しています。そんな物語を見て、私も選手の時に自分の気持ちを出してみんなを巻き込んだら、もっとペアを盛り上げることができたかなって思うことがありました。

逸茂 競技経験のない私が、「マイナー種目としてのペア」という、ある種、ネガティブなテーマに焦点を当てて描いていいのか迷いもありました。ペアのよさや楽しさといった前向きな部分だけを描くことも当然できるので。ただ、実際にカップル種目に転向した選手について調べると、シングルに限界を感じて転向する方、シングルへの未練も残して転向を決める方もけっこういらっしゃるんです。そして、彼ら彼女らが現在に至る日本のカップル種目を支えている。

 そういう事実にふたをして、100%ポジティブなことばかり描くのがはたして敬意と言えるのか、いろいろな背景や理由があることを否定してしまっては、葛藤の末にペアの道を選んでくれた現実の選手たちが報われないのではないか、と。このような考えから、作品ではさまざまな事情を抱えたキャラクターたちがだんだんとペアに魅せられる過程を描いていきたいと思っていました。なので今、高橋さんのお話を聞いて、意味があったのかなとすごくうれしいです。

高橋 「わかる、わかる」っていうことばかりですね。ペアは怖いと感じる部分も正直ありますし、最初の頃の恥ずかしいという感情も。主人公の峰越隼馬(みねこしはゆま)が最初、(隼馬とペアを組む)早乙女綺更(さおとめきさら)と手をつなぐことすらすごく恥ずかしがっていたけれど、実際、今のジュニアの子たちを教えているとそこが本当にけっこう大変で。急に手を離しちゃったり、身体で巻き込めずに浅いところをつかんだりして、けっこう苦労するところなんです。

主人公の峰越隼馬(左)と早乙女綺更/『ツーオンアイス』(集英社)主人公の峰越隼馬(左)と早乙女綺更/『ツーオンアイス』(集英社)

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