「元・天才テニス少女」が引退を決意した切実な理由 森田あゆみ33歳「寝られない。腹筋1回すらできなかった」 (3ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki

33歳になった今の森田あゆみ(写真提供●安藤証券オープン東京2023)33歳になった今の森田あゆみ(写真提供●安藤証券オープン東京2023)この記事に関連する写真を見る

【あの時、診察に行っていなかったら...すごい怖い】

 やがて彼女は、「身体の異変」を感じるようになる。

「寝られない、朝起きられない。練習に行っても、アップのジョギングの一歩目がぜんぜん踏みだせない。ジムに行っても、やらなきゃって思うんですが、体が動かない......。

 おかしいなっていうことで、周囲に相談してみた時、アスリートを多く診ている精神科医の先生を紹介してもらったんです」

 それが、約2年半前のこと。

「先生からは、なるべく薬は使わない方向でやろう、と言われました。疲れたと感じたり、無理していると思った時は、練習も休むようにしたり。本当に調子が悪い時は、腹筋1回すらできなかったんです。もう、体が思うように動かないんですよね」

 今でこそ笑って振り返るものの、身体の表現力こそが資本のアスリートにとって、自分の意志に反し、身体が動かぬ不安は想像に難くない。

「テニスはもちろん、日常生活でもなにもできない日とかあったので。そういう時は、さすがにちょっと休んで......もう、なんにもできないんです。

 とにかく横になって休んでいることしかできなくて。3〜4日休んでいると回復してくるので、ちょっとずつ身の周りのことができるようになり、練習にも行けるようになって......という感じでした。

 それでも、休養すれば回復するし、自分で動けるようになったので、うつ病と診断された人よりはぜんぜん、まだ軽かったと思うんですけれど......」

 ぽつりぽつりと言葉を紡ぐ彼女は、自分の心をのぞき込むように続けた。

「でも、診察に行っていなかったらと思うと、ちょっと......すごい怖いですね」

 通院し、医師の診察を受けながらプレーは続けたが、ひじにも痛みが出始めた冬の日に、自然と「その時が来た」と悟った。

「グランドスラムを目指すとなったら、1年通していい状態で試合に出続けないと厳しい。最初からポイントの高い大会に出られるわけではないので、そうなると試合数も必要だし、そう考えた時に、出たり休んだりをくり返していたら、もうそのレベルに行くのは無理だというのは、自分でわかっていたんです。

 あとは単純に、ツアーから離れて時間が経てば経つほど、戻るには今まで以上の何かがないと無理だと思ってもいました。そういうことを含めて、もう一度そのレベルに到達できるかなと考えた時に、あ、もう無理だなって。

 自分が頑張れる範囲は頑張りきって、これ以上はちょっと頑張れないなって思ったのが、決め手でした」

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