「スポンサーがなくなって、本当によかった」錦織圭が絶賛したフォアの持ち主・綿貫陽介の才能がようやく開花した (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

【これ以上はコーチできない】

 錦織の高評価が呼び水になったわけではないだろうが、ルコックや大塚製薬などの大企業もスポンサーにつき、大手スポーツ代理店「IMG」がエージェントとなる。戦績面でも20歳時にグランドスラム予選決勝まで進み、ランキングも171位に。順当な足取りかに見えた。

 だが、2019年の3月以降、彼のランキングは下降線をたどりだす。同年9月に綿貫のコーチについた兄・敬介は、当時の弟を「400〜500位まで落ちても、おかしくない状況だった」と述懐した。

「陽介はボブ・ブレットさんという名コーチに見てもらっていたんですが、『これ以上は見られない』と言われた。その後は僕の兄の裕介が見たんですが、兄にも無理だと言われた。僕は陽介を14〜15歳の頃からコーチとして見ていたので、最終手段で僕がつくことになったんです」

 実家がテニスアカデミーを経営する"綿貫三兄弟"の末っ子は、本人も「三男坊の甘えん坊」と認めるほどに、年齢よりも子どもっぽいところがあるという。テニスに関しても、「オープンコートに打つより、狭いところを抜くのが自分の持ち味」というような、よく言えば"美学"、悪く言えば"独りよがり"な一面があった。

 兄に言わせれば、それは「過信」であり、「地に足がついていない状態」状態だったという。

 なによりその頃の綿貫を苦しめていたのが、錦織が絶賛し、本人も自信を持っていたフォアハンドが、上のレベルではむしろ弱点となっていたことだ。

「ミスも多いし、精度もあまり高くない。打てばいいボールが行くんですが、安定感がなく、緊張した場面でミスが出るのがフォアだったんです」とは兄の弁。

 そのような情報やデータは一瞬で選手間に広がり、試合のたびに相手に狙われた。

「そこ(フォアハンド)を、技術的にもシンプルにしないといけないし、理に適った体の使い方をもっと覚えなくてはいけない。そこは正直、僕のなかではずっと課題でした」

 そう打ち明ける兄は、「本人に理解してもらえるまで、時間がかかりましたね」と苦笑いする。フィジカル強化は必須と進言する周囲に対し、綿貫本人は「ショットの感覚が変わるから身体を大きくしたくない」と考えたからだ。

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