水谷隼から見た男子卓球界の現状と、張本智和に次ぐ選手が世界で勝つために必要なこと 日本の指導者育成の課題にも言及した (4ページ目)

  • 高樹ミナ●文 text by Takagi Mina
  • photo by Kyodo News

【海外選手相手に必要な図太さ】

――戸上選手は、国際大会の経験を積んで成長できる時期にコロナ禍になってしまい、試合ができなかったというのは不運だったようにも思います。

水谷 そうですね。でも、戸上選手や宇田幸矢選手も去年はブンデスリーグに挑戦して、そこで揉まれたのは大きいと思います。

――その2人は、世界選手権ダーバンの男子ダブルス準々決勝で、相手のベテランのディミトロフ・オフチャロフ選手(ドイツ)から「レシーブの構えに入るのが遅い」と2度指摘され、イエローカードをもらったシーンがありました。あれを機に2人のコンビネーションが崩れてしまいましたね。

水谷 そういう経験もたくさん積むことで、対処の仕方を知っていくと思うんですよ。昔は気性の荒い選手が多くて、デンマークのマイケル・メイスなんかは、こっちがリードしていると急にラケットを投げたりボールを潰したりした。僕もまだ若手だったので、動揺することはしょっちゅうありました。

 でも、いつからか、そういう言動をなんとも思わなくなった。「勝負だから勝たなきゃいけない。自分が相手を潰さなきゃいけない」という気持ちが強くなったからです。海外の選手は、いろんな手を使って勝ちにくる。本当は見えているのに「サービスを打つ瞬間が見えない」と言ってきて、それを真に受けてちょっとでもサービスを見やすくしたりしたら相手の思うツボ。逆に自分が精神的に優位に立てるよう、相手がビビるぐらいの図太さを身につけていかなきゃいけません。

――世界選手権では、中国勢の強さもあらためて見せつけられました。

水谷 特に決勝に残った中国人選手2人は、男子も女子も強かった。別格でしたね。戦術もすごくいいなと感心しました。

 男子でいうと、王楚欽(ワン・チューチン)は、相手に応じてサービスを使い分けられる技術と自信がありますし、レシーブもチキータをカウンターされたら今度はストップにしたりもできる。樊振東(ファン・ジェンドン)もそうでしたね。「チキータが無理だな」と思ったらレシーブを変える、というように、お互いがすぐに対応するんです。試合の中で少しでも点が取りやすい、相手を崩すようなサービスとかレシーブを見つけようと必死に頭を働かせているのが見えました。それは日本の選手も参考にしてもらいたいですね。

(後編:熾烈な女子卓球パリ五輪争いの行方を展望 「メダルを取れる選手」を選ぶための選考基準に関する考えも明かした>>)

【プロフィール】

水谷隼(みずたに・じゅん)

1989年6月9日生まれ、静岡県出身。両親の影響で5歳から卓球を始め、中学2年からドイツ・ブンデスリーガに卓球留学。2007年に全日本選手権シングルスで優勝し、2019年には10回目の優勝を果たす。オリンピックには、2008年の北京五輪から4大会連続で出場。2016年リオ五輪ではシングルスで日本人初のメダル(銅メダル)を獲得。2021年東京五輪では混合ダブルスで金メダル、男子団体で銅メダルを獲得した。2022年2月に引退セレモニーが行われ、現役生活を終えたあとは解説者やタレントなど、幅広く活躍している。
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