天皇賞・秋「世界No.1ホース」イクイノックスに死角はあるか、あえて探ってみた (2ページ目)

  • 新山藍朗●文 text by Niiyama Airo

 はたして、その"隙"は完全に解消されているのだろうか。その名残がいくらかでも残っていれば、そこに重箱の隅をつつくくらいの、他馬にとっての逆転のヒントが隠されているかもしれない。

 前述の競馬専門紙記者にその点について問うと、きっぱりとこう言った。

「3歳クラシックの敗因は、あくまでも(馬自体の)完成度が低かったから。当時はまだ馬体が緩かった。だからといって、体質が弱いこともあり、無理に仕上げることはできなかった。つまり、それまでは素質だけで走っていたようなものでした。

 しかし今は違います。緩さは完全には解消されていませんが、馬体はダービー当時とは比べられないくらいよくなりました。だからもう、完成度が理由で負けることはないでしょう」

 ではもうひとつ、"折り合い難"はどうか。これについては、いまだ解消されておらず、最も大きな"隙"になると考えられる。

 イクイノックスのこれまでの8戦を振り返ると、その多くが後方待機からの末脚勝負で勝っている。これは、ヘタに位置を取りにいく競馬をすれば、引っかかる危険があるからだ。要するに、それが得意戦法というよりは、むしろそうせざるを得ないという一面もある。

「世界一」という評価のもとになったドバイシーマクラシックでは一転、逃げの戦法に出たが、これも折り合いに難がある馬ゆえ。先の専門紙記者もそれについては認める。

「あれだけスタートよくゲートを出た馬を、無理に控えさせようとすれば、必ずどこかで引っかかる。そこで、あえて抑えずにハナをきらせたのは、鞍上の(クリストフ・)ルメール騎手のファインプレー。逃げたくて逃げたわけではなく、逃げざるを得なかったというのは間違いないでしょう。

 いずれにしても、逃げか、後方一気か、というのは、折り合い難がある馬の戦法。そういう意味では、あの一戦で折り合い難が解消したとは言えないでしょうね」

 折り合い難――イクイノックスにとって、やはり最大の"隙"はそこにある。これまでの大舞台においても、この難点を抱える馬の多くが「追い込んで届かず」といった競馬をして、負ける姿を何度も見てきた。

 世界一のイクイノックスと言えども、同じ轍を踏む危険はある。「競馬に勝って、勝負に負けた」というレースを見せる可能性はゼロではない。

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