ブラジル人記者が嘆く「サッカー王国」の没落 五輪予選敗退は氷山の一角にすぎない (3ページ目)

  • リカルド・セティオン●文 text by Ricardo Setyon
  • 利根川晶子●翻訳 translation by Tonegawa Akiko

【機能しないサッカー連盟】

 ブラジル人選手たちが自分たちを強いと思いこむのは、「傲慢さ」からくるというより、「無知」からくる根拠のない自信だ。そして根拠のない自信は簡単に崩れ去る。

 実はブラジル人は逆境に弱い。自分たちに不利な状況になると、マイナスのほうへとどんどん引きずられてしまう。だから選手たちはピッチで簡単に涙を見せ、PK戦になればすでに負けたような空気になり、7-1(ブラジルW杯準決勝ドイツ戦)というとんでもない負け方をしてしまうのだ。

 ブラジルは世界最大のサッカー選手輸出国だ。トップレベルでは約1200人、すべてのカテゴリーを合わせれば2000人近くの選手が海外でプレーしている。しかし、おかげでブラジル人は自分たちの優秀な選手を母国で見る機会を失い、セレソンを身近に感じられなくなった。一方、選手たちも若くしてブラジルをあとにし、彼らは母国に対する帰属意識が薄い。セレソンのために命を懸けるなどという気持ちはさらさらない。つまり、ブラジルはサッカー自体を売ってしまっているのだ。

 教育のない選手には指針を示すことが必要だ。しかしそれを示すべき機関が機能していない。サッカー連盟は金儲けばかりを考えてサッカーを考えてはいない。

 たとえば2006年ドイツ大会では、ブラジルはチームというよりほぼ見世物状態だった。連盟はW杯前の大事な準備期間の練習を有料にして観客に公開し、金儲けに走った。ランニングやストレッチをする姿さえも金をとって見せた。もちろん選手は落ち着いて準備できない。結果は散々だった。最近では連盟の会長が6人連続して汚職や婦女暴行などで解任されている。逮捕された者もいる。ブラジルには規律もルールもマネージメントも欠けている。

 選手を導く監督さえいない、チッチ監督が去った後ブラジル代表は、実に1年近く監督の座が空席だった。連盟はブラジル人以外の監督を探していた。ブラジル人にその器がいなかったからだ。結局、ブラジル人のドリヴァウ・ジュニオールが就任したが、それはカルロ・アンチェロッティ(レアル・マドリード)に断られたからにすぎない。

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