カタールW杯決勝でフランス「陰のMVP」グリーズマンが輝けなかったのはなぜか (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by JMPA

【カタールW杯では黒子に徹していた】

 しかし、彼はゴールで答えを出してきた。2014-15シーズンから5年連続シーズン20得点以上(カップ戦を含む)という記録は、FWとしての勲章だろう。フランス代表でも、ユーロ2016では大会得点王となり準優勝をけん引。2018年のロシアW杯でもエムバペと並ぶ4得点でチーム最多、大会2位で優勝に貢献した。

 ゴールを託すべきエースというのが実像だ。

 しかし、カタールW杯では完全に黒子に徹していた。ポジションはインサイドハーフ気味のトップ下といったところか。ポール・ポグバ、エンゴロ・カンテというふたりのMFの不在で、ゴールへの欲を見せるよりも、リンクマンとしてバックラインと前線をつなげる役割に専念した。

 グリーズマンはスペースを支配するため、献身的に走った。積極的にギャップに入って味方のために顔を出し、パスを引き出し、そこから展開、攻撃を作り出した。また、ボールホルダーの体勢を読みきって、鋭い出足で詰め寄り、空間を奪ってはめ込む動きも秀逸だった。ショートカウンターを発動させ、爆発力のある前線のアタッカーを輝かせた。

<攻守で間断なくスイッチを入れる>

 それは相当の運動量を必要とするが、グリーズマンは労を惜しまなかった。変身とも言えるが、「共闘精神」という彼の持ち味が出たとも言える。

 グリーズマンはいつだって「守備ができるアタッカー」だった。アトレティコ・マドリードで、長くディエゴ・シメオネ監督に鍛えられたこともある。ほとんどのプレーがディフェンスから始まり、守備の網を張るための強度は抜群だ。そのため、カウンター型のチームでは前線でプレッシングの急先鋒になったし、縦に速い攻撃を引っ張った(逆に、ポゼッション型のバルサでは苦しんだ)。

 守備センスそのものは、レアル・ソシエダ時代にすでに光るものがあり、それは半ば天性のものだろう。

 アルゼンチン戦の前半に左サイドでメッシと1対1になった場面だった。まさに手練れのディフェンダーのようにメッシからボールを奪っている。相手のボールタッチに間合いを合わせ、足を出すという高い守備技術を見せた。

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