敗れても光っていた新潟の伊藤涼太郎 非凡な「独特なリズム」を武器にゴールを量産する (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 藤田真郷●撮影 photo by Fujita Masato

【俊逸な「止まる動き」】

 序盤に先制点を奪われた直後、味方のパスを引き出し、ライン間で受ける。軽やかにドリブルに入り、コース取りとボールの置き方でファウルを誘い、FKを得る。仕上げに、自らFKを右足でGKの逆を突いて右隅に流し込でいる。今シーズン6得点目だ。

「前半は自分たちがボールを握ることはできていたので、手応えはありました。FKは分析で相手GKが壁のほうに動く、というのが情報で入っていたので、狙いどおりでした。GKから見えるか見えないかの高さで......」

 伊藤はそう振り返った。いかにして相手の逆を取るか。それが染みついているのだろう。

 前半37分にも、特筆すべきシーンがあった。敵陣内で相手のボールタッチのミスを見逃さずに奪い返した後、自らはバックラインの前に入る。周りがせわしなく動いているなか、彼だけが一瞬、立ち止まってボールを受けている。時間の流れのなかのズレを見つけられるのか。右足で放ったシュートはGKに防がれたが。

 "止まる動き"に伊藤の才能は現れている。福岡戦での劇的な逆転弾も一例だろう。彼だけがボールの行く先を予測し、止まったからこそ、待ち受けて撃ち抜けた。これは簡単なことではない。

「Pausa」

 これはスペイン語で「休止、停止」という意味だが、異能として語られる。

 スピードを突き詰めた場合、速く動くことが最善だと考えられる。しかし、止まることで相手の逆を取ったら、はるかに優位となり、簡単にスピードは倍加する。いわゆる、緩急の変化である。そのおかげで、非力に見えても、驚くほど速くなくても、相手を凌駕できる。世界ではアンドレス・イニエスタ、ダビド・シルバ、ルカ・モドリッチ、ジョアン・フェリックス、ペドリ、日本人では鎌田大地、久保建英などが「Pausa」の使い手である。

 伊藤は東京五輪世代で、その才能は注目されてきた。しかし、J1ではずっと定位置をつかめなかった。25歳になった今シーズン、J1でようやく初得点を記録した。

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