「パスは未来へ出せ」。ベンゲルは低迷するグランパスの選手に言った (4ページ目)

  • 飯尾篤史●取材・文 text by Iio Atsushi

ベンゲルの通訳を務めていた村上剛氏 photo by Fujita Masatoベンゲルの通訳を務めていた村上剛氏 photo by Fujita Masato 2トップのストイコビッチや小倉にボールを預けて、2列目や3列目の選手たちが追い越していき、彼らがパスを受ければいい。こうして、後方から選手が次々と飛び出していくダイナミックでコレクティブな攻撃のイメージが共有された。

「人の心を動かすというか......、ベンゲルは言葉のチョイスが巧みなんです」

 こう語るのは、ベンゲルの言葉を選手たちに正確に伝えようと腐心した村上剛である。ベンゲルが語った哲学的な言葉は、他にもこんなものがあったという。

 Simple is the best, but simple is difficult.

「つまり、シンプルにプレーするのが一番いいけど、そのシンプルなプレー、例えば、ワンタッチでのプレーは難しいんだよ、と。さらに、この言葉には続きがあるんです」

 Life is the same.

 人生も同じである――。

「これまでいろんな監督の通訳を務めさせてもらいましたが、ベンゲルはモチベーターとしても優れていたと思います」

 ベンゲルは言葉の重要性を理解していたから、どう話せば伝わるのかも熟知していた。試合前のミーティングは必ず20分以内で終わった。それ以上長くなると、聞く側の集中力が持たないことを知っていたからだ。

 試合のポイントは、模造紙にまとめて選手に伝えた。1枚目に全般的なポイントをシンプルに3つ書き込み、それをめくると、攻撃のポイントが3つ、さらにめくると、守備のポイントが3つ書き込まれていて、ビジュアルで目に飛び込んでくるように工夫されていた。

 さらに、重要なゲームであればあるほど、ミーティングの時間は短かった。

「だから、大一番の前は、ミーティングがあっけないほど早く終わるんです」

(つづく)

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