鳥栖・豊田陽平「監督主導のチームはうまくいく」 (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by AFLO

 その日、豊田の所属するサガン鳥栖はJ1リーグで単独首位に立った。それはクラブの規模を考えれば快挙だと断言できた。数年前までの鳥栖は、J2から昇格することさえ望み薄だったのだ。

「"自分は優勝に縁遠い選手じゃないか"と達観していたこともありましたね」

 豊田は肉を小皿に取り分けながら言う。

「名古屋(グランパス)のときも、移籍したあとでチームは優勝しているし、"頂点に立つ"という瞬間を味わったことがないんです。だから、優勝を争うこともほとんど初めて。これから、どんな重圧がのし掛かってくるのか、そのせいで自分がどう変化するかも分からない。怖さ? それはないですよ。経験してみたかったことなんで。プロサッカー選手をやっていても、優勝を争うというのはなかなか味わえない経験だから、そこはかなり楽しみですね」

 置かれた境遇を客観視することが、彼はできていた。

 23人のメンバーから漏れたブラジルW杯。豊田は悔しさを感じながらも、テレビのゲスト解説の依頼を引き受けている。それが「選手として刺激になる」と計算したからで、うじうじとしたところはない。判断においては感情的な思いに囚われず、合理性が勝る。

 主力選手が「W杯優勝」を公言して鼻息の荒かった日本代表は、結局2敗1分けでグループリーグ敗退という結末だった。自分を選ばなかった存在に対して愚痴ってもおかしくはないが、豊田はその事実を批判するでもなく、淡々と捉えていた。

「なんであんな結果になったのか、それはあの場所に立てなかった僕にははっきりとは分からないです。あくまで一般論ですが」

 彼はそう前置きしてから続けた。

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