熊谷紗希を生かす「新システム」 なでしこジャパンはW杯敗戦を糧にすることができたのか (2ページ目)

  • 早草紀子●取材・文・写真 text&photo by Hayakusa Noriko

 あれから4年が経ち、南も成長し、相棒となる高橋はな(三菱重工浦和レッズレディース)や、世界基準を視野に入れられるポテンシャルを持つ選手たちをワールドカップで試すことができた。ようやく今、この形に着手できるときがきたのだ。

「守備的ミットフィルダーという役割が今の自分に一番求められていることは理解しています。私のうしろには確実に対人に強い2枚が入るはずで......そこがカバーしてくれれば、自分はもっと積極的に前に奪いに行けるんだっていう感覚を増やしていきたい。ボール奪取をひとつ前の位置に上げるところまで見せていけたら、うまく攻撃につなげられると思います」(熊谷)

 なでしこジャパンがオプションのひとつとして絶対に持っていたいのが、この『4-3-3』なのだと熊谷は言う。それは先月のワールドカップでの唯一の敗戦だった、準々決勝のスウェーデン戦での経験があるからだ。日本のプレスが、高さと速さを生かし、効果的なロングボールも織り交ぜてくるスウェーデンには効かず、踏ん張ることもできずに失点を食らった。おそらく今後、対戦する相手はこのやり方を日本から勝利を奪う戦術として踏襲し、なでしこジャパンはこの課題をクリアしない限り、勝利への道が拓けないことが明白になった試合であった。

「もし、あの時にこれ(4-3-3)を持っていれば、90分のピッチのなかで、自分たちで一度でも状況を変えることができたかもしれない」と語っていた熊谷。新システムでアルゼンチンがボールを保持して上がってこられないことを確信すると、うしろを3枚にしてワイドなポジションの選手を上げていく。相手の状況をいち早く察知し、柔軟にピッチ上で変化と適応を見極めていた。この90分で、できることはほぼやり尽くした上での8ゴールの快勝だった。

 アルゼンチンがベストメンバーではなく、来日の際に移動時のトラブルにも見舞われ、「ベストなコンディションには程遠い」と相手指揮官も試合前に明かすほどの状況を考えれば、この結果にもろ手を挙げて「なでしこは強い!」とは言えない。それも選手たちは十分に理解した上での「やるべきことは見えた」という熊谷の言葉だ。スウェーデン戦の悔しさを払拭するための第一歩をなでしこジャパンが踏み出した一戦だった。

2 / 2

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る