甲子園を逃した「高校ナンバーワン投手」大阪桐蔭・前田悠伍に見え隠れしたかすかな不安 (5ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 前回登板から中5日。自らに言い聞かせるように、一方でたしかな自信を持って臨んだマウンドだった。

 ネット裏席の2段目から見た投球は、立ち上がりから勢いを感じた。前回よりも間違いなく力があり、状態が上がっているのは明白だった。うしろの席に並んでいたスカウトたちの声が耳に入る。

「42、40、44......」

 ストレートはコンスタントに140キロ台をマークしていた。ただ、履正社先発の福田幸之介のストレートはさらに上をいき、常時140キロ台中盤を叩き出していた。時に「150キロ」の声も聞こえ、ストレートとスライダーに時折カットボールを交え、大阪桐蔭打線を圧倒した。

 前田は2回に守りのミスも絡み先制を許すと、4回には二死満塁から9番・野上隼人に2点タイムリーを浴びてリードを広げられた。今大会、序盤で手首を痛めた正捕手・坂根葉矢斗の穴を見事にカバーしていた野上だったが、この試合前までの打撃成績は17打数5安打、打率.235。この9番打者にカウント1−1から投じたチェンジアップが高めに浮いた。試合後、前田はこのシーンをこう振り返った。

「選択は間違いじゃなかったんですけど、甘くなってしまった。(ボール)2個分低めに投げ込めていたら、打ちとれたと思う」

 たしかにそれはあったかもしれない。しかし、"困った時のチェンジアップ"が相手にも浸透し、待たれていたのはたしか。泳がされることなく、しっかり合わされてライト前に持っていかれた。甘くなった時でも抑えられる強さ、キレが、この夏の前田には足りなかった。

 6回は無死満塁のピンチをしのぎ、7、8回は3人ずつで締めて、マウンドを降りた。試合後、取材陣から後半の投球に前田らしさを称賛する声もあったが、ギリギリの投球に見えた。現時点でできる最善の投球ではあったが、それで「よく投げた」と称えられるレベルの投手でないはずだ。

 そんな前田に、コースはアバウトに投げ込んでくる福田のストレートはどう映ったのだろうか。

5 / 6

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る