【水泳】松田丈志「最後かなと思った五輪で、逆に先が見えたんです」 (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by Honda Takeshi

――チーム作りにも気を使った中での、個人としての戦いはどうでしたか。

松田 金メダルがなかったというのはひとつの課題だし、個人的にもキャプテンとして金を獲りたかったというのもあります。ただ終わっての感想となると、『間に合わなかった』という意識が強いですね。去年の冬から始めたトレーニングや体の使い方に取り組む中で、本格的に『これだ』と自分で気がついたのは2月でした。それ以来徐々に良くなってきて、今も良くなり続けているんですよ。だから体の使い方や泳ぎのテクニックが、もう少し早く固まってレースも何本かこなして五輪を迎えていたら、またちょっと違った結果になったかなという気持ちはありますね。

――ただ200mバタフライでは、銅メダルだけど1位とは0秒25差だし、2位のマイケル・フェルプスを0秒20差まで追い詰めたのは、頑張りましたよね。

松田 けど、タイム差よりも順位がすべてですからね。良くなってきていただけに、今回はやっぱり悔しさがありますね。

――ロンドンへ向けて、100mを強化してきた意味というのは何だったのですか。

松田 今はもう高速レースだから、100mのスピードがないと200mも戦えないというのは明らかなんで。それにメドレーリレー(100m×4)を泳ぎたいという気持ちがずっとありました。1年前の世界選手権で予選では泳いだけど、決勝は泳げなかった。決勝のレースをスタンドから見ながらやっぱり悔しいと思ったし。だからロンドンでは、僕が文句無しでバタフライを泳げるような状態にしていきたいと思っていました。その意味では4月の日本選手権も物足りなかった。もっといい記録で、藤井拓郎に勝って優勝するくらいの気持ちでやっていたので。

――でも、本番のロンドンでは個人の100mバタフライで藤井選手より上の順位でしたね。そして、メドレーリレーでの泳ぎはさらにすごかった。51秒20はすごく速い。

松田 メドレーリレーは僕自身、個人のレースよりもある意味ゾーンに入ったような感じで、すごくいい集中力で泳げてましたね。予選ではスタートで失敗したし、決勝で泳ぐのも初めてだったけど、『いけるはずだ』という変な自信みたいなものもあって。それは周りの3人に助けられた部分と、『この4人で勝負していけないわけがないだろう』みたいな気持ちがあった気がしますね。それに個人レースも52秒36で自己ベストではないけど、拓郎に勝てたのが、それぞれの種目を誰が泳ぐかを決める上でも良かったと思うんです。僕自身も胸を張って泳げるし、メンバー全員も迷いのない状態になれたから。

――それに、51秒20はスタートのリアクションタイムの差を加算しても51秒6台にはなる計算だから、100mの決勝でも4位になる記録。自信になりますね。

松田 でも僕は、リレーの引き継ぎのスタートはけっこう得意なんです。だからフラットレースでもスタートの技術を磨いてその差を埋めれば、それくらいは出せると思います。泳ぎ自体も良かったし、次へ向かう上でもあの泳ぎは自信になったと思います。

――今まで考えていた泳ぎの理想形に近づいてきていると?

松田 そんな感じですかね。細かな技術も含めて、もっとうまく泳げるようになってもっと速くなれるっていう気持ちは、ロンドンの大会中にもあったんです。「こういうことを冬場から取り組んだらいけるな」とか。確かに選択肢としてはロンドンで辞めることも考えていたけど、まだ向上できるという気持ちがある限り、アスリートとして辞められないな、と思っていましたね。

――反省よりこの先が楽しみになったという、今までと違う五輪になった感じですか。

松田 そうなんですよ。北京の時はけっこうやり切ったという思いから、先のことは考えられなかったんです。だけどそこから4年やって新たに見えてきたこともたくさんあって。年を重ねて、最後にしてもいいかなと思った五輪で、逆に先が見えたんです。何か変ですよね。

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