スーパーランナー田中希実は「人間の可能性を決めたくない」だから「世界記録が更新されても驚かないし、トップ選手たちにも憧れない」 (3ページ目)

  • 寺田辰朗●取材・文 text by Terada Tatsuo

【パリ五輪2種目入賞のために】

――パリ五輪の目標は同一大会での1500m&5000m入賞。そのために取り組んでいくことは?

田中「2023年の取り組みをより膨らませるようなことをしたいと思っています。まだどちらの種目も代表に内定していませんが、1500mと5000mの2種目で入賞以内を目指したい。スピードが主になってくるとは思うのですけど、スピードと実践力を、とにかく上げていきたいです。だから合宿だけでなく、アメリカの1500mのレースで揉まれるようなことをもっとしたい。そういったレースで(パリ五輪へ)持っていくことを今は考えています」

――2種目入賞は1964年東京五輪の円谷幸吉選手の例もありますが(10000m6位、マラソン銅メダル)、近年の日本選手では考えられないことです。どのようなトレーニングを行なっていくつもりですか。

田中「ケニアに行ったら本当に普段の練習がハイレベルなので、その練習さえできるようになったら1500mから10000m、もしかしたらマラソンまで対応できるんじゃないか、と思えます。そういう練習をどの選手もやっているので、やっぱり普段の練習の質を上げていくことが大事かな、と。持久力に振るとか、スピードに振るというより、レースは実践力だけ意識して出るとして、普段の練習ではスピードと持久力の両方が鍛えられるような練習をしていきます。質をできるだけ高くできたら、強くなるんじゃないかなって思っています。昨年は転がり込んできたようなレースも多くありました。今年は海外のレースをもっと計画的に組んで、着実に競争する力、他の選手と勝負する力を高めていきたいなと思っています。ケニア合宿も昨年2回目として行ってみて、より効果を感じられました。そこももっと効果的に組み込んでいけるようにしたい。欧米のレースと、ケニアのちょっと泥くさいような合宿というサイクルを、もっとうまく回していけたらいいなと思います」

――常に世界トップレベルを見ているから、われわれがすごいと思う結果を出しても、そこで満足しないで努力を続けられる?

田中「どうでしょう......明確に世界記録や金メダルを狙っているわけでもないのですが。普段の練習から負けず嫌いで、地道にコツコツやり続けて、1回1回の練習でも自分に向き合って全力でやっていて、喜んだり悔しがったりしています。そういった日々を形にしたい、頑張った日々の可能性を自分で狭めたくない、という気持ちが大きくなってきました。その答えは自ずと出るものであって、潜在意識で限界を決めるものではないと思っています。だから何が起きても驚かない。それがあるのかな」

――やはり目標は高く設定していますか? パリ五輪も、今言葉に出ましたが、将来取り組むかもしれないマラソンでも。

田中「世界陸上もオリンピックも、行けるところまで行く、という考えです。2種目入賞という目標設定はしていますが、どちらかの種目でメダルを取りたい、とも考えています」

田中コーチ「マラソンを走るとしたら2時間15分をイメージして取り組まないとダメでしょう。どのタイミングで出場するかはわかりませんが、2時間20分を切るところに目標を置いて練習したら、いつまで経っても世界との差は埋まりません」

田中「自分の可能性を決めたくない、という思いがありますが、人間の可能性も決めたくない。だから世界記録が更新されたと聞いても、あまりビックリしないんです。出ると思っていたけど、やっぱり出たか、と思ったりもしました。世界トップ選手たちも憧れというより、人間ってここまで走れるよね、という感じで見ています。私の場合は日本国内の人たちに対して、(世界で戦える)可能を示せたらいいな、と思います」

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