吉田知那美が「勝ちたいけど、どうしたらいいかわからなかった」時に支えとなった格言 「笑顔」にこだわるようになったワケ (2ページ目)

  • 竹田聡一郎●取材・構成 text by Takeda Soichiro

 他にも「目標を手近に、具体的に置く」や「感動し合えるチームは雰囲気がよくなるだけでなく、脳の判断力、理解力が増すことで仕事のパフォーマンスも確実にアップする」など、同作には生活や仕事、人間関係や育児といった日常に落とし込めそうなヒントがたくさん載っていて、今も定期的に読み返す大切な本です。

 脳科学という難しいジャンルでありながら、脳というものの機能や役割がわかりやすい言葉で書かれているので、17歳の私にも読めたのだと思います。

 もちろん、「これを読んで全部実践して勝てるようになりました!」ってことは一切なく、自分自身でさまざまな失敗を経験しながら少しずつ歩んできたのですが、迷ったり、悩んだりした時には確実にの私の支えとなってくれました。

 その後、別の書籍でアメリカの哲学者であり、心理学者のウィリアム・ジェームズの「楽しいから笑うのではない、笑うから楽しいのだ」という名言を知りました。この言葉の科学的な証明に関しては無知だったのですが、林先生の書籍を読むと、この言葉も理解することができました。

 実はその後、林先生に会う機会が突然訪れました。私がロコ・ソラーレに入った2014-2015シーズンの日本カーリング協会の強化合宿の講話講師がなんと、林先生だったのです。

「勝負脳」という単語を聞いたことがあると思いますが、これは林先生が脳科学を基に作った造語だそうで、競泳の北島康介選手やなでしこジャパンの佐々木則夫監督との関わりなども交えてスポーツの「勝負脳」についての講演をしてくださいました。

 講演の最後に、憧れの先生に突然会えた興奮が抑えられず、「17歳の時、先生が書いた『脳に悪い7つの習慣』を買いました! 一緒に写真撮ってください!」とお願いし、写真を撮ってもらいました。

 林先生は救命救急センターに勤務されている時、ご自身のチームに「出勤前に鏡の前で笑顔を作ること」を勧めていたというエピソードがありますが、私は試合に入る前に行なうチームルーティンのハイタッチの時に、どんな心境であってもチームメイトに向かって笑顔を見せることを意識しています。そうすると、チームメイトも笑顔を返してくれます。

 ほんの少しのことかもしれないけれど、そのほんの少しが土壇場で大きな力を生むこともあると実感しています。もし興味のある方はぜひ実践してみてください。

吉田知那美(よしだ・ちなみ)
1991年7月26日生まれ。北海道北見市出身。幼少の頃からカーリングをはじめ、常呂中学校時代に日本選手権で3位になるなどして脚光を浴びる。2011年、北海道銀行フォルティウス(当時)入り。2014年ソチ五輪に出場し、5位入賞に貢献。その後、2014年6月にロコ ・ソラーレに加入。2016年世界選手権で準優勝という快挙を遂げると、2018年平昌五輪で銅メダル、2022年北京五輪で銀メダルを獲得した。2022年夏に結婚。趣味は料理で特技は食べっぷりと飲みっぷり。

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