坂本花織、常に勝利を期待される経験が財産に「無になって集中」して全日本3連覇 (3ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

【女王の強みは喜怒哀楽】

 試合前の気持ちの切り替えは、「ぼっーとする時間をとったり、応援に来てくれた友だちといっぱいしゃべったり、トレーナーと一緒に散歩したり」と坂本。

「自分はしゃべると気がラクになるので、しゃべって発散して。会場に行く頃にはもうすっきりして、じゃあ試合に行くぞという気持ちに切り替えることができました」

 これまでの大舞台の経験が糧になった。もっとも緊張した大会は、ロシア勢の欠場で「優勝は当然」と思われて臨んだ2022年世界選手権だった。体調的にも精神的にも万全ではなかった試合で、翌年の出場枠3枠を確保するために坂本の2位以上が必須というプレッシャーもあったが、重圧を乗り越えた。銅メダルをとった北京五輪以降、常に勝利を期待され、戦い続けた経験が彼女の財産になっている。

 演技後のミックスゾーンで坂本は常に笑顔で、周囲も笑い声が湧き上がった。

 泣き、笑い、悔しがり、喜ぶ...。坂本は喜怒哀楽を素直に出すことで気持ちを発散し、集中力を高められるのだろう。それもまた、王者でありつづけることを自らに課して戦い続けることができる、彼女の才能だ。

 2024年3月の世界選手権で坂本は、再び3連覇のプレッシャーと戦う。

プロフィール

  • 折山淑美

    折山淑美 (おりやま・としみ)

    スポーツジャーナリスト。1953年、長野県生まれ。1992年のバルセロナ大会から五輪取材を始め、夏季・冬季ともに多数の大会をリポートしている。フィギュアスケート取材は1994年リレハンメル五輪からスタートし、2010年代はシニアデビュー後の羽生結弦の歩みを丹念に追う。

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