坂本花織が受けていた初めてのプレッシャー。「いつもの風が感じられなかった」 (2ページ目)

  • 辛仁夏●文 text by Synn Yinha
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

「今できることは全部やれた」

 強豪のロシア勢がウクライナ侵攻の制裁措置で大会に出場できないなか、追いかけられる立場になった坂本にかかる重圧は、想像以上だったのだろう。常にベストのパフォーマンスを出すためには、それなりの準備が必要なことは言うまでもない。

「SPの得点は妥当な点数。2位発進で追いかける立場のほうが楽だし、てっぺんを目指してやるだけです。久しぶりに最終滑走じゃないので、初心に返った気持ちでやりたい。世界女王としてのプレッシャーはあまりなかったんですけど、自分のなかでは『ない』と思っても、ちょっとどこかで思っているのかなという感じはしています。でも、SPで2位になってやっと吹っ切れたというか、もう1回仕切り直せそうな、いいきっかけになったと思います」

 続くフリー『Elastic Heart』では、細かいジャンプミスを犯しながらも、耐えて踏ん張る姿が見られた。冒頭のダブルアクセルはダイナミックで幅のあるジャンプが力強く決まった。続く3回転ルッツ、3回転サルコウもキレのあるジャンプを跳んでみせたが、後半のフリップ+トーループの連続3回転ジャンプでは、どちらのジャンプも4分の1回転が足りない「q」マークがついて、GOEで2.35点の減点となった。3連続ジャンプはしっかり決めたものの、最後の3回転ループは回転が抜ける失敗で1回転のパンクとなった。

 演技後は両手で頭を抱えて悔しそうに顔をゆがめていた。

「昨日(のSP)よりいい緊張感のなかでできた。最後のジャンプまで耐えていたのに、最後の最後にジャンプ(3回転ループ)がパンクしてしまい悔しかった。でも、今できることを全部やりきったので、よかったです」

 フリーの結果は133.80点の1位となったものの、合計は201.87点で総合2位にとどまった。GP初優勝したキム・イェリム(韓国)とは2.62点差だっただけに、最後のジャンプミスが悔やまれた。

 今回のNHK杯での坂本は、SPもフリーも、いつものような安定感のあるジャンプが影をひそめ、着氷で詰まったり、バランスを崩したりという場面が見られた。

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