坂本花織が不調のなかで見せた「奇跡の演技」。「あまり自信がない」GPシリーズへの糧になった (2ページ目)

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

「調子が悪かったので、集中力で持たせた感じで」

 冒頭、ダブルアクセルは長い飛距離で安定していた。3回転ルッツ、3回転サルコウ、3回転フリップ+2回転トーループとアテンションや「q」はついたが、みごとに着氷。そして、最近の練習で鬼門になっていた3回転フリップ+3回転トーループを鮮やかに降りた。

「骨折の影響ではなく、3・3(3回転コンビネーションジャンプ)が跳べなくなっちゃって」

 実は、坂本は演技前にそう打ち明けていた。

「(本拠地である)神戸の練習では、ミス止め(※失敗がすると曲が止まり、順番が次の人へと移る練習)をしているんですが。いつも3・3で止まってしまって、なかなか先にいかない状況で。3・3はショート、フリーのどちらでも得点源として大事なんですが......」

 鬼門を突破した後、彼女は勢いに乗った。スピンもレベル4で、ダブルアクセル+3回転トーループ+2回転トーループ、3回転ループを成功させ、最後はスタンディングオベーションを受けた。

この記事に関連する写真を見る 使用曲『Elastic Heart』はしなやかで容易に屈しない心という意味で、その不屈さを歌い上げた曲だが、雄大で屈託のない演技はその世界観に迫っていた。彼女自身の人生とリンクするのか。とにかく世界を制した選手には見えざる引力があった。プログラムコンポーネンツ、スケーティングスキルでは10点満点で9.75点をつけたジャッジもいた。

「練習では調子が悪かったので、集中力で持たせた感じで」

 坂本は言ったが、それができるステージに立つ世界でも稀有な選手だ。

「練習では演技後半になってミスが出ていたんですが、この大会は集中してここまでできました。今後、集中すればノーミスができる、というきっかけになればと思っています。これから、自己ベストに近づけるようにしていきたいです」

 スコアは146.66点で、女子では1位。2位のルナ・ヘンドリックス(ベルギー)を15点近く引き離し、日本チームの優勝に大きく貢献した。

 今月開幕するグランプリシリーズ、坂本はまず10月21日からのスケートアメリカに挑む。「ショート、フリーとどちらもまだあまり自信がなくて」と漏らしていたが、ジャパンオープンでの勇戦で視界は開けただろう。今や、滑りに気品を漂わせるようになった。世界女王の輝かしい称号が、彼女の技術を研ぎ澄ませているのかもしれない。

 2022−2023シーズン、坂本は新たな時代をつくり上げることになりそうだ。

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