阿部詩「柔道は好きだから全部できる。それ以外は...」 五輪2連覇へ突き進む絶対女王の成長と意外な素顔 (2ページ目)

  • 佐藤温夏●取材・文 text by Sato Yoshika
  • 村上庄吾●写真 photos by Murakami Shogo

【好影響をもたらした両肩の手術】

――肩の手術に踏みきったことの影響はどうでしょうか。タイミング的に心身の休養のための時間にもなったのではないでしょうか。

「手術をしてから試合に復帰するまで6、7カ月かかって、その間は柔道から離れていたのですが、そういう時間があってよかったなと思っています。やっぱりあのタイミングで手術をしていないと変に自分を追い込んだりして、心も体も休まらないまま次にリスタートしていたかもしれないと思います。もちろん手術したおかげで身体はすごく楽になりましたし、手術をしたことは自分のなかですごい変化だったと思っています」

――変化とは、例えばどんなことですか。

「自分にしかわからないようなところで、言葉で説明するのはすごく難しいのですが、手術前には伸ばせなかった角度の方向に手を動かせるようになったりとか、腕がちょっと伸びるようになったり、といったことです。

 以前は組み手争いの時は自分が嫌な方向になるともう(手を)離すしかなかったり、組み手を持ち替えたりとかしていたのですが、今はもうそういうことが全然ありません」

――東京五輪後は2022年、2023年と世界選手権で連覇を果たしましたが、特に昨年の世界選手権は肩の状態がとてもよいのだな、という印象を持ちました。とても伸び伸びしていたというか、釣り手や引き手(※)を持つ位置が以前よりずっと自由になって、接近したり、離れたりといった間合いの管理が自在でした。いかがでしょうか。

※柔道の基本姿勢である自然体で釣り手は襟、引き手は袖を持つ手のこと

「やっぱり自分の技や動きが警戒されているなかでも試合を動かしていかないといけないので、そこは東京五輪後からはいろんなところを意識しています。接近戦でも投げられるように、また離れたところからでも、何でも技をかけられるようにっていう部分は取り組んできました」

――技に関してはどうですか。

「足技が使えるようになったと思います。あとは立ち技から寝技への移行については東京五輪の前よりできるようになったと思います。相手が逃げながら、苦しまぎれに技をかけてきたときにそのタイミングで寝技に行くとか、あとは足技で相手をつぶして寝技に行くというような形ができるようになってきたかな、と思います。

 でも相手の技への対応だったり、フィジカルの部分だったり、まぁ、まだまだ足りない部分はあるんですけど、少しは進化したのかなとは思っています」

――寝技の話が出たのでうかがいます。阿部選手といえば内股や袖釣り込み腰などの豪快な立ち技を思い浮かべる方も多いと思いますが、近年は寝技で勝負を決める試合がますます増えています。寝技はもともとお好きですか?

「いや〜、昔はあまり好きでなかったですし、今もやっぱり立ち技よりは全然好きとは言えないです。でも、勝っていくには絶対的に必要なものですし、勝つための手段のひとつですから、嫌なことも取り組まないといけないとは思っています」

両肩の手術を経てその柔道に幅が広がったという両肩の手術を経てその柔道に幅が広がったというこの記事に関連する写真を見る

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