武蔵と武尊が明かすK-1の過酷な闘いの日々 「負けたら終わり」と考えていた理由 (3ページ目)

  • 松岡健治●取材・文 text by Matsuoka Kenji

【叩き上げと大々的なデビュー、それぞれの大変さ】

武蔵 武尊くんは"叩き上げ"というか、誰にも知られていないところから自分の力で今の地位を築いたことは、とてつもなく尊い。逆に俺は、デビュー戦のパトリック・スミス戦で大々的にデビューしたけど、「いきなり大きなショーに放り込まれたド素人」みたいな気分だった。

 あらゆる媒体に「アンディ・フグと互角にスパーをする」「すごい日本人がデビューした」みたいに書かれて......キックボクシングでは何の実績もないのに、期待だけを煽られてね。実際のところ、アンディとのスパーリングでは毎日ボコボコにしばかれてたんだよ。

武尊 そうだったんですか。

武蔵 スパーでつけるヘッドギアには、脳天部分にはカバーがないやん? アンディはそこにカカト落としを落としてくんねん! 守られてないねん!「いい加減にしろ!」って(爆笑)。こっちは目ん玉飛び出そうになってんのに、アンディは笑ってんねん(笑)。当時の練習生と一緒に、飯を食いながら「いつかやってやる」と話をしてたよ。

 だから俺のデビュー戦は、簡単に言えば"ふるい"。空手のノリでパッとデビューさせられて、負けたらもう使わないという状況だった。当時の俺には「これで負けたら終わりだ」という緊張感があったね。武尊くんのように叩き上げていくのも厳しいけど、俺にはそんなつらさがあった。

武尊 僕は、キックボクシングでデビューした頃は「自分はこの世界で成功できるのか」と、自分で自分をふるいにかけていました。「チャンピオンになれなかったら、この世界にいる資格はない。チャンピオンになるまでは負けられない」と。

 そして、いざK-1でチャンピオンになってからは、「K-1の代表として負けちゃいけない。一回でも負けたら終わりだ」と思っていました。勝ち続けるほど、「自分が負けたら『K-1、日本人が弱い』となってしまうんじゃないか」という恐怖心が、試合ごとに増していきました。

武蔵 そこまで思いつめてたんやね。俺はデビュー戦で派手にKO勝ちして、何とかふるい落とされなかったけど、そこからは永遠に試合が続いた。その中で、ヘビー級で戦うために体を大きくせなアカンかったし、技術面も課題ばかりで克服しないといけないのに、試合だけはどんどん組まれていく。当時は、自分がやらなければいけないことができないことに、ずっと悩んでいたよ。

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