レスリングの未来がここにある。19歳の藤波朱理は「106連勝」、23歳の絶対女王・須﨑優衣を追いかける (2ページ目)

  • 宮崎俊哉●取材・文 text by Miyazaki Toshiya
  • photo by AFLO

【藤波朱理の強さとは何か?】

 試合の流れを完全に制した藤波は、奥野の心理状態を読みきり、時間の経過だけを意識した。藤波に負ける要素はまったく見られなかった。

 第2ピリオド残り30秒、攻めるしかない奥野が飛び込んでくると、藤波は冷静にカウンターで片足をつかみ、バックに回って2点獲得。ダメ押しのポイントを奪って勝負を決した。

 試合終了のホイッスルが響くと 藤波は1発、力強く両手を叩くと、小さくガッツポーズ。そして満面の笑顔を見せた。

「マットに上がれば、連勝記録なんて関係ない」

 藤波は常々そう語ってきたが、積み上げた連勝記録は「106」。連続大会優勝も「27」。女子レスリングのレジェンド伊調馨や吉田沙保里に迫る勢いだ。堂々の全日本選手権3連覇である。

 藤波朱理の強さとは何か──?

 まず一番に挙げられるのは、手足の長さだろう。レスリング選手にとって最も基本的な、そして最大の武器である。

 対峙した時、相手は入って来ることができない間合いからも、藤波はタックルに入ることができる。藤波最大の武器である片足タックルは、その手足の長さを活かして炸裂させる。

 次に挙げたい要素は、抜群の運動能力に裏打ちされた瞬発力だ。攻撃はもちろん、防御においても藤波の反応のよさは飛び抜けている。

 今大会の決勝戦でも、藤波は奥野のタックルをバックステップで何度も、何度も軽々と封じている。元世界チャンピオンの奥野に足さえも触らせず、ことごとく攻撃の一手を潰していた。

 そして3つ目は、いわゆる「レスリング勘」。レスリングのセンスや頭のよさと言ってもいいだろうか。

 藤波の父・藤波俊一は現在、日体大で田南部力コーチや伊調馨とともに女子を指導している。父のもとで4歳からレスリングを始めた藤波は、常にトップレベルの環境で鍛えられてきた。

 藤波は片足タックルを最大の武器にカウンターで勝負するタイプだが、同時に相手の戦い方も緻密に分析し、頭脳的に戦っている。試合中は常に冷静に、点差、残り時間を意識し、やみくもに相手の懐に入ってチャンスを与えることは決してない。

 奥野との決勝戦の結果は5-0だったが、点差以上に実力差があった。奥野は6分間、何もできずに完敗したと感じたことだろう。まさに「藤波劇場」を見せつけた試合だった。

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