石川祐希が「自信をなくしました」と語るなど万全ではなかった日本男子バレー そのなかで際立った髙橋藍の好調ぶりと成長 (3ページ目)

  • 中西美雁●取材・文 text by Nakanishi Mikari
  • 坂本清●撮影 photo by Sakamoto Kiyoshi

【ミドル陣の活躍と、守備の安定感】

 長く「日本の弱点」と言われ続けたミドル陣だが、2m超えの3人が交代しながら踏ん張った。

 小野寺太志は安定した攻守で活躍。ハイブリッドサーブで相手を崩し、ネット際のボール処理でも技術の高さを見せた。ミドルに取らせて攻撃を遅らせるためのショートサーブ、ラリー中のトスもきれいに上げて流れを途切れさせなかった。代表最年長で副将の山内晶大も着実に成長。初戦のフィンランド戦では、追い込まれたあとに小野寺のサーブで崩し、山内がブロックで仕留める場面もあった。

 3人目の髙橋健太郎は長くヘルニアに苦しんできたが、ポテンシャルの高さを存分に発揮した。髙橋はエジプト戦で負けたあと、今年3月に胃がんで早逝した元日本代表のセッター、藤井直伸さんの特集をテレビで見て奮起したという。

「『お前ら何やってんだ。頑張れよ』と言ってくれてるんだと思いました。だから次のチュニジア戦では、僕が入ったらブロックで止めよう、タッチを取ろう、そしてコート内を盛り上げようと。それを精一杯やりました」

 大会が進むにつれて髙橋の体は限界がきていたが、3人でそれぞれをカバー。五輪の出場権獲得が決まった際には、ミドル陣同士で抱き合って号泣した。曰く、ミドルには「他の人にわかってもらえない苦労」があるようで仲間意識が強い。パリ五輪に向けてさらに進化していくだろう。

 調子が上がらない選手もいる中で日本が踏みとどまっていたのは、大会を通して好調だった髙橋藍の働きが大きい。SNSでの発信が盛んで、注目されることもプレッシャーではなく自分の力に変える22歳は、OQTでも躍動した。

 イタリアリーグで2シーズンを過ごし、昨シーズンは試合のMVPになることも多かった。特に成長した点は、フロントでの攻撃の幅が増えたことだろう。以前はクロスが多く被ブロックされる場面が目立ったが、今ではストレートやブロックアウト、リバウンドで何度も切り返すといった、石川も実践する技をどんどん取り入れている。

 そして何より、リベロに負けない守備力の高さが光った。サーブレシーブ、スパイクレシーブ、つなぎの質はより向上し、それがチームの底上げにもつながった。

 守備では2人のリベロの活躍も見逃せない。山本智大は大会序盤、石川をカバーしていたこともあって調子が上がらなかった。3戦目のチュニジア戦でも、今大会の日本にとっての「魔の第3セット」でサーブレシーブが乱れたが、もうひとりのリベロ・小川智大が入ってさっとサーブレシーブをさばいた。

 コートにひとりしか立つことができないリベロは、代表でも選手同士があまり言葉を交わさないこともあるという。だが、山本と小川はかなり親密で、常にお互いにアドバイスし合っているそうだ。小川は「彼(山本)も世界のトップリベロですし、僕自身もそうだと自負しています。その2人が切磋琢磨して、チームが勝つために全力を尽くしていれば、守備のいい日本を世界にアピールできると思います」と笑顔で語った。

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