【テニス】初のシードで挑む錦織圭の全豪。「理想のテニスができている」 (2ページ目)

  • 内田 暁●文・撮影 text & photo by Uchida Akatsuki

 案ずるより産むが易(やす)し......ではないが、そのように神経をやや尖らせていた錦織にとって、全豪の直前に急きょエキシビションが組まれたのは、僥倖(ぎょうこう)だったろう。1月12日と13日に錦織が参戦した『クーヨン・クラシック』は、ATPポイント対象外の試合とはいえ、全豪オープンの調整として多くのトップ選手が参戦する、真剣勝負の場。その大会に欠場者が出たため、控えだった錦織に出番が回ってきたのだ。

 そうして得た絶好の力試しの場で、錦織は世界5位のジョー=ウィルフリード・ツォンガ(フランス)、そして元世界1位(現在16位)のアンディ・ロディック(アメリカ)と戦い、いずれも勝利。なかでも圧巻だったのが、ロディックを破った一戦だ。陽気でファンを喜ばせることに重きを置きがちなツォンガに比べ、ロディックはエキシビションでも真剣に勝つためにプレイしていた。しかも、錦織にとってロディックは、因縁浅からぬ相手でもある。

 4年前。ロディックと対した18歳の錦織は、試合中に心ない言葉を浴びせかけられ、「尊敬していた選手があんなことをするなんて......」と、試合後に涙を流すほどの心の傷を負った。その相手を、22歳になった錦織は完全に翻弄した。硬軟織りまぜたショットを左右に打ち分け、ロディックを走らせまくる。そして、ややスローな展開の中から機を見て、突如ラケットを鋭く打ち抜き、高速ショットでコートをえぐる。思うようにプレイさせてもらえないロディックは、ラケットを地面に叩きつけ、ざわつく客席にも怒りの矛先を向けた。

 一方の錦織は、叫ぶロディックを見ても表情ひとつ変えず、縄を引き絞るように、徐々に、そして確実に相手を追い詰め、勝利を手元に引き寄せていった。「今日はミスがほとんどなかった。ストロークが安定し、自分で時折攻めてポイントを取れる理想のテニスができている。なので、全豪もチャンスがあるのではと思います」。ロディックとの勝利後、錦織はそう口にした。

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