「早稲田らしさ」が出たラグビー京産大戦。勝利の陰にあったのはノンメンバー同士の試合「代表として出る責任を感じた」 (2ページ目)

  • 松瀬学●文 text by Matsuse Manabu
  • 齋藤龍太郎●撮影 photo by Saito Ryutaro

【外国人留学生に刺さる猛タックル】

 もっとも、勝因を探れば、相手自慢のスクラムで押されなかったことが大きいだろう。8人一体の早大フォワード(FW)の結束には成長の跡がみえる。ケガから復帰し、フッカー(HO)で先発した佐藤健次はこう、振り返った。

「スクラムはフロントローで組み勝ったというよりは、8人全員でまとまって組めたのかなと思います。バック5(ロックとフランカー、ナンバー8)の重さがよかった」

 劣勢が予想されたスクラム、ラインアウトのセットプレーで互角に渡り合い、パワフルな外国人選手に突破を許しても、ディフェンス網としては最後まで大きくは崩されなかった。

 試合運びとしても、「敵陣勝負」に徹し、極力、22メートルラインを割らせなかった。アタックも準備した形でトライをとりきった。

 つまるところ、ワセダらしさとは、試合運びのしたたかさとハードワーク、そして準備力か。記者と交わるミックスゾーン。ふたりきりになると、吉村は「でも、"したたかさ"というと、うまく相手を攻略したように思われますけど」と声のトーンを上げた。

「僕らが一番大事にしているのは、戦うマインドなんです。ディフェンスのところで、何人も、外国人留学生に(猛タックルで)刺さってくれていたので勝てたのです。そういうところも書いてください」

 同感である。主将のFL相良らFW第三列(両フランカーとナンバー8)やHO佐藤のひたむきなタックルには見る者の胸を熱くするものがあった。

【"荒ぶる"へあと1つ】

 
 さあ、決勝は、圧倒的強さで勝ち上がってきた昨季大学王者の帝京大である。早大は対抗戦(昨年11月6日)では17-49で大敗している。何より個々のフィジカルの強さ、セットプレー、接点でやられた。確かにここまでの試合をみると、劣勢は否めない。

 だが、勝負に絶対はない。対抗戦から2カ月。チームは大きく成長した。早大の大田尾監督は「戦略の徹底」を強調した。

「監督、コーチ陣が"こういうプランだったら勝ちきれるよね"と考え、選手と同じ絵を見られるか。選手たちが、"これならいける"と信じる落とし込みが必要じゃないかと思います」

 相良主将はこうだ。

「1年間、信じてやってきたスローガンの"タフ・チョイス"とか、"1000分の1のこだわり"とかを、ひたむきにやり続けることが勝利への近道かなと思います」

 優勝した時にしか歌えない早大の部歌『荒ぶる』へ、あと1つ。下馬評を覆られるかどうかは、4年生を軸としたチームの結束と本拠・上井草グラウンドでの最後の1週間の準備にかかっている。

【著者プロフィール】松瀬学(まつせ・まなぶ)
スポーツジャーナリスト。日本体育大学スポーツマネジメント学部教授。元共同通信社記者。長崎県出身。早大ラグビー部ではプロップで活躍。1987年の第1回大会からすべてのラグビーW杯を取材。また夏季五輪も1988年ソウル大会から2021年の東京大会まで9回取材している。著書に『荒ぶるタックルマンの青春ノート 石塚武生のラグビー道』(論創社)、『ONE TEAMのスクラム 日本代表はどう強くなったのか?』 (光文社新書)など。

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